デビュー・オブ・ビューティフルライフ
「低気圧が関東の南岸を通過する。関東は朝のうち大雪の恐れ」
前日夜半から雪が降り出した。アッという間に外は白く変わった。とりあえず荷物は揃えたが、美容院はキャンセルか、と迷う。
東京都内でも1998年１月15日以来のまとまった雪とのこと。まさに３年前のその日は長女の成人式だった。そして今年、１月８日又してもまとまった雪である。全国で約157万人が大人の仲間入りとか。
世の中式典でのマナーについて取りざたされているが、新成人は笑えるモノとまゆをひそめるモノの境目を判断できる力を養ってもらいたいものである。卒業式で何かやってやろう、何かやらかしたいという気持ちは私はむしろほほえましいと思う。壇上に上がり校長先生から卒業証書を受けた後、こちらへ向き直り、ポケットからカメラを取りだし皆を撮る。やったー。これで卒業式を終わります、という挨拶があったとたん１０人ぐらいがクラッカーをパンパンと鳴らす。チャンスをうかがって今だというサインがあったのだろう、驚きの声の後、笑いと拍手である。
はたして今年の事件。市長の挨拶中、市長に向けクラッカーを鳴らし、紙を投げつけるのと、似てはいるが大差がある事に気づいて欲しい。
さてこの雪の中、着物を着るのはどうなのだろうか。雪や雨で着物が濡れる。台無しになる。絹なんだから、貸衣装じゃないんだから、それに慣れない草履で滑ってけがをする、交通機関の心配、タクシーも来ない、前撮りは無事すんでいるし、今日はやめようか。おねえちゃんも前撮りのみだったし、まあこれは雪のせいではなくて、おねえちゃんの頑固な考えのせいだけど・・どうする？と何回も言った私。
当事者である娘は、足袋の替えを持てば大丈夫、友達のお父さんお母さんが車で送ってくれる、友達は着物で行くと決定している、洋服ではつまらない、インパクトがない、お姉ちゃんは背が高いから黒いロングコートでも着物に負けないけどと、草履をはいて外を少し歩き「歩ける」と帰ってくる。
母に電話して着せるべきか否か、意見を聞こうと思うが母も迷うだろうと思いやめる。後になって、電話して聞いておけば良かったと後悔する。「雨ならだめよ、着物が台無しになる」「着たがったら着せてあげたら？Ｍちゃんの思うとおりにしてあげて」「絶対着せてあげて。汚れたらクリーニングへ出せばいいんだから、ジャンジャン」ナンテ言っただろう。何せ着物を買ってくれた本人、母の意見なのだから。
さて３日後電話をしてみた。「無事成人式を終えました」と報告をした。その答えはなんと、「良いお天気で良かったね」静岡に住んでいる母はそう言った。
娘が中学２年生の時引っ越しをした。転校をしないようにと家捜しをしたが、結局隣の市に決まり、学校も新しい家のすぐ近くだったのでやむなく転校をしていた。当初は寂しかっただろうが友達は２倍に増えた。そして、とりあえず前の学校のお友達と電話で相談をして、その子の家までタクシーで行けば会場までお父さんが送ってくれる。こちらのお友達の家までタクシーで帰ってくればお母さんが車で送ってくれると２カ所の会場へ行く算段が整っている。
窓を開けて、雪の積もり具合と雨に変わった空模様と着物が・・という私の意見を聞いて夫が子供部屋へ行き
「無理だろう、洋服で行けば？」
と忠告し居間へ帰ってきた。
「なんだって？」
「うんわかった、っておとなしく承知したよ」
「おとなしく？それは承知してないって事よ、そして洋服で行くって自分の口から言わなきゃ、あきらめてはいないって事なのよ」
よしキモノだ。外を見る、雨が・・風が・・ウーン４５万円のキモノは捨てる。それより思い出だ。
前日、濡れても良い着物捜しをしていた。寝ている夫の部屋で懐中電気を使い、タンスから、押入から、たとう紙を引き出す。オレンジの更紗、これなら雨もはじく、でも合う帯がない。赤と銀の模様が縦にポイントで入っている黒い着物、帯は金で小物を豪華にすればなかなか。そしてグレーの毛皮を合わせるとシックで個性的、でも袖は短い。振り袖を探すが自分の成人式の時のはもう親戚行きだし・・。七五三のがある。あの子は背が小さいからコレか？出して見てみたが、さすがにとんでもないと気づく。近頃購入した私の着物は高価だし、雪の日になんて、しかも袖が短い。辻が花でも良いが、やはり袖が・・。
この騒動を見てイエモンのコンサートから帰った長女が言った。
「今日のための着物、今日着なくていつ着るの。もう一生着ないよ」
でも雨が、でも車で、でも雪が、でも大丈夫、でもタクシーが、でもみんなが、でも、でも、でも・・そして着物と決まった時の嬉しそうなこと。
「じゃ急いで支度して」
「もう出来てる。荷物１つ持って先行ってる」
とかって。成人式当日、朝６時半から７時半の葛藤のお話でした。
天に物申す。これから先、１月第２週の月曜日の雪はご勘弁を。出来得れば雨もご勘弁。日本を背負って行く新成人のために、日本晴れをよろしくお願いしまーす。子供の名前はＭ。今年から保育士となって社会へ出ていく、まさに（ビューティフルライフ）のデビューである。
追伸
混んだ美容院できれいに着付けをしてもらって、沢山のお友達と会い、ほくほくで帰ってきた娘の着物を脱がして大笑い。なんと裾よけの下に脱ぎ忘れたツイードのスカートを着込んでいる。
「どうりであったかかったわけだわ」
に家族で受けた。
