駅構内の丸井の入り口で待ち合わせをした。
　駅構内の反対側にあるマツキヨから電話が来る。

「どこにいるの？」

だから

「丸井の前だって」。

　「私も携帯買ったのよ」近頃よく耳にする言葉だ。ほとんどのおばさんが持っている。しかし使いこなしてなじんでいるのは、知っている限りでは約一名だ。他のおばさんは使うチャンスがないから、こんな時こそ使いたがるのです。

　

その日は送別会の集まりです。遅れてくる二人からの電話を気にしつつ会場に向かう。しばらくぶりで会ったので、ぺちゃくちゃおしゃべりしながら歩いていると、何やら小さい音がする。

電話だ。電話がバッグの中で鳴っている。今日の幹事役であるOさんがバッグを開ける。どこを押すのとつぶやきながらめがねを捜す。ケースからめがねを取りだし電話を見る。音がやんだ。相手は倹約をして夢に向かっている携帯には無縁の子である。次にかかってきたら、必ずとるとめがねを握りしめる。そして携帯はバッグの中。あ、これじゃ聞こえないかと又取り出す。耳も目もね、おばさんは弱っているのさ。たとえばショートケーキと聞けば消毒液？台ふきんと聞けばアイスティー？と言う具合にね。ほんとか。Oさんはいつも子供からの電話だけを受けているというので、慣れているのかと思ったが、どうやらあやしい雰囲気が・・。

　会場に着き今日の主役であるＩさんがカクテルのプリティーウーマンを注文して笑われる。笑った私も日本酒の美少年にやられたことをばらされて笑われる。又電話が鳴った。しまい込んでいためがねを取りだし電話を見る。音がやんだ。着信履歴を見てみたら？どうやってみるの？貸してごらんと受け取っては見たものの機種が違うとお手上げで、あちこちさわるのも怖いのでそのままお返しする。あ、でもきっと公衆電話からだわ、あ、そうか、なにせ彼女は夢に向かっているのだ。

　

連絡がつかないで困っているよね、と私の携帯を取り出すとこっちにも着信履歴があった。私の電話はコンサートの時用に、ベルが鳴らないバイブ機能にしてもらっていた。子供に頼んでね。それを音が出るようにする方法を教えてもらったのはその日帰ってからのこと。機能と３を押してシャープのやじるしで選んで登録するってね。

でも着信があるということは連絡つくのかなと思いリダイヤルしてみた。Ｉさんの電話が鳴った。遅れてくる彼女からかと思ったら、誰からだかわからないという。リダイヤルしてみたらと言ったら私の電話が鳴る。そうかさっきのマツキヨからかかってきた通話記録に、今私がかけたってことか？

 

　幹事である０さんが迎えに行ってくると言っている。会えなかったり、こっちへ着いちゃったりしたら連絡するよ。番号は？そういえばつい最近購入した０さんの番号を聞いていなかった。返事は・・わからない。じゃそっちの番号は？うっ、わからない・・。じゃ一回かけてみて、何番？いっわからない・・。じゃこれ置いていく。それじゃ連絡が・・。アレ、とにかく行ってくる。

　

検診予約のための電話を午前中ひっきりなしに１分のスキもなく受ける。パソコン画面で予約状況を見て希望の先生のいる日と照らし合わせる。複数受信の人には順番がある。同日には無理な検査もある。当日の急なキャンセルは他の日をとりつつ、それぞれの科と受付へ連絡をする。翌日と翌々日のカルテの準備もある。

つい最近までみんなで知恵を出し合って、これはこうしましょ、こっちはこうしたほうが、じゃこれはこうしましょ。と考えて改善し向上し完璧な仕事をしてきた。そんな私たちのあまりの落差に密かに驚愕したものです。

　

ステレオ、テレビまではついていってたのに、ビデオのセットあたりからあやしくなりだしました。ケーブルだのワウワウだののセットはＬ１で録るのですよ。そして１１チャンネルはケーブルの１８で、とかってむずかしいですよねえ。そしてピッチは若者のもので無関係と見ているうちに、携帯でおいて行かれたというところか。携帯でメールなどは夢の又夢ということでしょうか。

　

白い大きなカサブランカをかかえた夢に向かっている彼女が来た。プリティーウーマンが喜ぶ。美少年も感激。難航した結婚がさらっと決まったナースの卵は彼宅で花火見物とかで早退したが、ウニやイクラの寿司から白玉ぜんざいのデザートまで、幹事役の０も満足して帰途についた。ホッ。

 

　若い頃、安井和美のおしゃれな生活ぶりにあこがれ、大橋歩で結婚生活を夢に見、近頃は林真理子で笑って生きてきた。子供だった昔、ファッションに興味を持ち、スリリングな旅行をし、音楽の洗礼を受けた青春時代。結婚をし子供が育ち、「ロマンチックで夢のある真面目なおばさん」になりました。

 

たくさんの思い出と友達に囲まれてこれからもおばさんは生きてゆく。

（本当はマリアお姉さまと呼ばれているのさ。ウッフッフ）・・。