| 優君や広君からの手紙時々読み返して楽しんでいる。そしてこんな手紙書いてる時とても楽しいんだよ。退院の時の服装のこと。そして一番先に床屋へ行って髪を短くしたい。一ヶ月近いとボーボーだからいやな感じだよ。一週間にいっぺん位は車ベッドに移してもらって洗ってもらうんだけど、今までは毎日風呂に入る度に洗っていたんだからとっても気持悪い。ヒゲは時々自分で剃っているから病人らしい汚い感じはないよ。この病室に入ってこのベッドから出たのはレントゲンとギブスベッドの型取りのため一回、頭髪洗い二回、日光浴一回、シーツ交換で廊下に出されたこと一回の計５回だけ。話す人もなく２４時間×２１日、つらいよ。痛いとこがある訳でなし、同じ姿勢でいることは死の苦しみより一寸良い位のとこなんだ。理解できる？ 床屋だって今までは１２日ごとに行っていたのだ二回分抜けているんだからね。帰る時（退院の日）は車で帰るよ。ラジ関オールナイトパートナとても楽しくやってくれた。日記と手紙ばかり書いているのでカートリッジ（スペアインク）５本も使った。大学ノートも３分の２は書いちゃったよ。今一番困っている事は睡眠時間のことと排便のこと。常人（朝起きて夜寝る普通の生活をしている人）には一寸理解できないかもしれないけど長年昼夜勤と云う変則生活をしていると夜眠れない日が多いんだ。家に居ればビールとかウイスキーでも少し飲めば眠ってしまうけど、病院はそうはいかないし、どこか痛くて眠れなければ薬をくれるけどどこも痛くなんかない。昨夜も当直の看護婦さんと一寸やり合ったんだ。あんたも夜勤をやっていればその気持ち判るんじゃないのと云っても入院患者と働いている看護婦、条件が違うんだから仕方ない。次に排便。これ床の中でやるのとても出来るもんじゃないよ。婦長さんや担当医は赤ちゃんになった気で看護婦さんに何でもやってもらうようにしなさいって云うけど恥ずかしいやら苦しいやら出るものも引っ込んでしまうんだ。馴れた頃は退院だよ。ここまで書いて疲れたからここで一寸オヤスミネ又続きを書くよ・・。 さっきの続き、婦長さんに来てもらって眠られない原因対策を話し合った。宿直の看護婦さんが薬を上げずに自力でねむる様にと云うのも判る。くせになると困ると云う気持（意地悪しているのではない）と云うのも判る。しかし眠れないからと電気をつけて読書することは規則があって出来ない。酒やビールを入院者が飲むことは禁じられている結局は睡眠薬を消灯時間（午後９時）にもらってのむことに担当医と相談するらしい。排便の方は私自身でいちぢく浣腸して床の中でやる。あと４・５日の辛抱だ。ガンバルよ。入院中会社の数学などの勉強はしなかったけど、社会科・・その中でも人間関係はすごく勉強になった。それから耐えることも一つの固定されたベッドの中にいて考えること・・苦しかった。今日も天気が良い。しかしこの部屋は朝から晩まで陽の光は入って来ない。ああ、早く家へ帰りたい。泣きたいくらいだよ・・。 今まででうまくてうれしかった食べ物は谷口さんからのつけもの二回目に少し持って来たすじこ、アルミハクに包んできたコーヒー、病院の朝食についたネギの入った納豆、ゆでたまごをきれいに切ったのやなるとなど入った細いうどん。はじめの味付け海苔（これを又買い足して入れてからは余りほしくなくなった）だから思いがけないものをほんの少し欲しいんだなあ。広君や優君が小さい時おいしいものだと毎日毎日つくってって良く云ったことあるけどそうゆうのはいやだな。果物もいろいろお見舞いにもらうけど沢山あると食べる気がしない。一旦もって帰って、一つ二つ持って来てもらうのが良いんだ。便箋ももう少しでなくなるので又一冊お願いします。 |
十月三十一日（土）今日は素晴らしい日本晴れの秋晴れである。昼食後婦長さんが来て「今日は土曜でよい天気ですから車ベッドで散歩を午後二時からさせてあげますよ。何処へ行きたいですか」と云う。「ウワーうれしい！日光浴させてくださいこの天気絶対日光浴・・。」「テレビでも何でも良いですよ」「太陽に当たらせて下さい」すると窓側のおじいさんは「テレビが良いですよ日本シリーズ・・。」と云うのは、今おじいさんは歩けないので私のラジオを借りたかったわけだが・・「日本シリーズはラジオを持って聞きながら日光浴しますよ」とこれはゆずれない。こうして午後二時五分前車ベッドが来た。日誌やらラジオ、イヤホーン等紙袋に入れて用意しておいたのを持ってベッドを移してもらい車ベッドで廊下を通りエレベーターで六階迄行き、屋上へ出て先ず風景を車の向きを変えてもらいながらベッドの上から見る。 近くに池上の本門寺（ロッテの宿舎になっている）その反対側に大森工場のガスタンクその線を結んだ頂点に東京タワーその三角形の中にこの病院があるのだ。サングラスが欲しかった。あれは背広の胸ポケットに入れたままだった。二十日ぶりに浴びた陽の光。その嬉しさ察しがつくだろうか。少したつと冷たい風が出てきたのでガラス戸の中のサンルームに入った。あつい光線がガラス戸を通して汗が出たのでシャツも脱ぎ上半身裸になって素足も毛布の外に出し約一時間日光浴した。伊原さん、戸丸さんという二人の看護婦さんに連れて行ってもらったが入院の人にこんなサービス取り扱いなんてしたことがないそうで私は大へん大事にされているわけです。 |
昨日はマミーの帰りがけに急いで書いたのでラジ関の話から電波について一寸知らせましたが、家で今優君たちが使っているラジオは優秀な２バンドで後ろ側のツマミを切り替えるとＦＭ放送が聞けますよ。本当に良い音楽を聞くのにはＦＮ放送が良いのです。雑音がないし良いものを多く放送します。そのときはアンテナを長く伸ばして電波を上手にとらえる為に聞きながら選局しアンテナの向きを調整します。もうそろそろ電池がなくなる頃だと思います。ボリュームを上げても声が小さかったりカリッカリッと雑音が入ったりするのは電池がなくなったときですので「箪２」を３本買って（３本で百円位です）入替えなさい。ホックをはずして取出し裏フタを一寸持ち上げれば外れます。図に書いてあるとおり＋−プラスマイナスを間違えない様に。マイナス側はスプリングになっていますからそのほうに少しずらせば取出せます。必ず３本共全部取り替えること。 ポピュラーばかりでなく、たまにはクラシックを聞き教養を積むことです。又クラシック曲でなくとも数十年前からの名曲、例えば枯葉、ダニューブ河のさざなみ、タンゴやワルツの中にも名曲としていろいろあります。最近の曲は心に訴えるものが少なくリズムアンドブルースとかロック調で歌詞はそのものズバリ過ぎてドギツクて夢がないように思います。機械化されたマンモス都市の現代っ子には自然の美しさ、秘めた愛の悩ましさ等心理的理解力が少なく、物質的なものに求める方が多い。そのようなことから音楽ばかりでなく物質の判断も相手の心を案じるより先ず自己本位な考え方をするようです。 木からもいですぐ食べておいしかった蜜柑、優君の書いてある通り日当たりのよい所で色づいたものが最高です。太陽の光は植物にも人間にも大切です。人間はさらに心の中を豊かにすれば金銭的な貧乏は解決して行けます。そんな事をたまに考えながら良い音楽をきけば楽しいですよ。 広君に御願いがあります。２６３−００００に電話して下さい。テープの答えが住宅ニュースを知らせます。空家申込と賃貸住宅と二通り十一月上旬(一日から五日）位にあると思われますので聞きながら場所と３ＤＫの家賃、申込期間、申込用紙発売日等メモを取りパープルセンター上で申込用紙を買ってもらいたいのです。(目黒の家がまだ正式に決まらないので）でも期間がまだ先のようでしたらメモだけマミーに持たせて届けてください。 |
マミーへ 十一月二日(火）午後四時半、明日若し優君が家に残るようだったら午後から頼んだものを持って来て貰いたいと電話を頼んだ。その直後コルセットの仮縫いに来た。これの出来上がるのが来週の火曜日（八日）そして一応八千七百円の支払いをするそうです。それが出来て何日か体操をして退院になります。次々とその日によって良い情報が入りますが早く伝えたくて直接電話したいけどそれは出来ず誰かに頼まなくてはならない。今日は仮縫いの時、ちゃんと二本足で立って合わせたけど余り歩いていないので少しふらついたけど・・。四日は又午後二時に来て下さい。又ニュースがあると思うし、薫君の結婚式のことも聞きたい。しかし渋谷の石井様の所へ持って行くのでしたら四日は来ないで五日午後二時に来て貰いたい。いろいろ用事もあるだろうけど着替えの着物、シャツ等、出来たらニンニクの瓶、テープ忘れなかったら持って来て下さい。周一さんの住所と住宅の申込用紙も忘れないように願います。 |
十一月三日（正確には四日午前一時十五分） お父さんの原稿を放送してもらったよ。余り長いので半分だけだったけど、騎馬戦で落ちて入院していることと年齢はムニャムニャとやってくれた。次に娘の話になり広君の全国旅行の話、オートバイで会社へ通いたいと困らせた話、などアシスタントはゲラゲラ、この女の子又会社やめるんじゃないのかななんて男のアナウンサーが云った。次は犬も交通信号を守る話とバスに乗った女のつり銭の話。これは２人で長々と論争をしながら面白い話をした。リクエスト曲はレコードがないらしくかけてくれなかった。聞いていても面白かったよ。あの書き方も良かったし内容が面白いし、娘の名前は出ていないので安心してくれ。住所も○○区○○町○○さんと云っただけだから聞いている人は面白かったと思う。どうだいヤッタゼ。シカモ一回デ。五枚も書いたのに四枚分はそのまま放送してくれた。お父さんの若い時冒険やった話、脱線ゲームを一人で企画、司会の話も放送してくれた。全部やってくれたらもっと面白かったろうに・・でも長いので十分位読んでくれたよあとはカットされても仕方ないよ。 昨日は睡眠薬のまないで眠り、十二時半頃同室のおじいさんが苦しんで看護婦さんが出入りしていたので目がさめたんだ。一通り騒ぎが済んだらお父さんの放送が始まったので佐藤さんと云う看護婦さんを呼んで聞いてもらったらあら、面白いわ良かったわねと云ってくれた。知っている人で誰があの放送を聞いたろうか、そんなこと余り気にしないけど一寸気になるネ。こういうことはついてるけどお金の方がこのようについていたら良いのにネ。でもそれは働けばついてくるよ。しっかりやろうネ。 |
退院の日の心得としてカベにピンで止めて時々読んで下さい。 十一月になりました。ツキが変わったのです。いずれにしても今月退院するので退院の日の服装について考えて、用意して貰いたいものがあります。コルセットをつけたままなので本当は着物が良いのですがでも男物の着物はウールにしても相当高顎なのでそれはあきらめます。上は薫君結婚式用にと用意したドスキンの黒の上下(黒のバンドを忘れないよう)シャツはクリーム色のオープンシャツその下に八分袖の丸首シャツ、下のほうは（黒の上下に矢印が）、ナイロンブリーフ七分袖(長さのこと）のズボン下、ここまでは現在あるもので間に合うと思うが靴はくたびれているので駄目。買ってある玄関にある新しい下駄も駄目(センスなし)下駄は前がこのようになり(絵が描いてある）緒がヘビ(もちろんイミテーションで良い男物）下駄となれば足袋（これも新品で十文三分）こんなかっこうで退院したいと考えています。両方で千円一寸と思いますので用意しておいて下さい。ここからタクシーで帰ります。荷物が多いのです。(下駄の絵へ矢印)見つからなければヘビ皮の雪駄で良い）洋服、オープンシャツは型をくずさない様洋服箱に入れて持ってきて下さい。 春江の方は余り頭をセットしたり化粧したりしないこと。この点守って下さい。又余り高い声ではじゃぎ廻らないこと。退院がいつになるか判らない人にはとてもシャクにさわるものですから静かに静かに。お世話になりました、有難う御座いましたと挨拶するときは、笑顔、白い歯を見せないように充分気をつけてください。退院はお目出度い事ではあるが・・。やっと社会に帰れる人の気持、残る人の気持とてもとてもデリケートなのですから、あのハデな気分を充分おさえてもらいたいのです。この点は今から勉強しておいて下さい。見舞いの時でも看護婦さんが楽しそうに来ている春江を見て皮肉を云っているのですからね。病人同士も気分が良い日は面白い話をしますが、その笑い声はかわいたうつろな笑いなのです。そんな事を察して下さい。 |
退院の日も間近になった今日（九日）はコルセットが出来上がって来る日だ。この入院中いろいろと勉強になったつもりだ。孤髑について。一人で大した痛みもなく寝て居られる入院などは入院としては一番良い條件だろうしかし秋の夜長を一人で居る淋しさ、わびしさ、病人でなくともつらいことだろうと思う。広君も優君も女同士の姉妹でたまにはけんかしたとしても人生としては良い環境で育ったと思う。だから孤髑について、肉親の愛情についても淋しがり屋を理解できないかも知れない。市ヶ谷に勤めている友人は五回も見舞に来てくれた。住居が鶴見なので通りかがリだからと云っても勤務が毎日の様に残業で午後八時までなので来るときには六時頃会社を退けて来るそうだ。週刊誌や月刊誌、ある時は菓子、果物、焼きのりなどを持ってくる。しかし何も持って来なくても良いのだ。夕食後から午後九時迄の消灯時間の長いこと。そして又ねむりつくまでの淋しさ、笑ってしまうかも知れないけど・・。 会社の人たちも一通りはみんな一回づつ来てくれた。しかし忙しいし長い入院なのでその後はバッタリと来ない。義理なんてそんなものかも知れない対人関係と云っても表向きだけのきれい事で心は離れたものらしいし他人の事に自分の時間と自分の金を使うのは義理が果たせればそれで良いのかもしれない。床に入ったまま考えていると各人の心の中が読みとれる様になるが、これも一つの勉強だったと思う。 人間は何の為に働き、何の為に生きて行くのか、哲学じみた考え方が出来るのも入院の良い点だし、自分自身今までどの様に生きてきたかの反省をできるのも良かったと思う。社会に生きて行くためには金も必要だが、何よりも美しい心が大切であり、それが人間だと思う。自分のやりたいことだけやるのは本当の自由ではなく、動物に近い生き方だと思う。世の中ってむづかしいけど・・。 |
親からの手紙というものはなかなかもらえないものだが、会社の運動会で騎馬戦の上から落ち腰の骨を折った。一ヶ月の入院のおかげでパピの手紙が残った。ちりばめられた言葉は子や孫への遺言のように響く。来年パピの１３回忌の法要となる。
| 「４・５月号（３・４月結果）送ります。不思議なくらい記録が出ます。賞品を宅急便で送るくらいありますので楽しみにしていてください。皆さん元気で５月の空を見上げよう・・では。○○」 |
ミリオンクラブ月例会４位（５８６）ペプシコーラ杯３位（８４４）モーニングボール３位（８４４）ミリオンボウル社長杯３位（８２０）ペプシコーラ杯４位（８２８）ハイスコア（２５５）ペプシコーラ杯準優勝（８３４）モーニングボウル優勝（８４７）ペプシコーラ杯準優勝（８３７）ミリオンクラブ月例会４位（６０１）ディナートーナメント優勝（８１３） ６０歳代でいただいた楽しみ。これは人生最後の神様からの贈り物だったのだろうか。
| 「忙しいのに申し訳ありません。ぜひ来場をお願いします。代金は入院見舞いのお返しの一部です。気にしないで下さい。子供達には美しい物語の芝居です。東映「瑕」では映画俳優らしい役でがんばってます。」 |
映画やドラマに出ていたが、役者としてくだらないものには出ないように自分を大切に、という忠告に従っていたらあんなに意欲があったのに代表作などもなく６８歳で死んだ。
三周忌にはお父さんは死んだんだと本人に解るように、こんな手紙を書きました。
| お父さん、こんにちは。お父さんが病院で息を引き取ってから、もう2年経ちました。お葬式も一周忌もみんなで力を合わせて無事終えることができました。そして今回三周忌で○○へ集まります。私はもっとたくさんお墓へ行きたいのですがちょっと遠いのでごめんなさいね。寒い冬が来ますが、お墓の中は暖かいのかしら（ホッカイロでも？）（ばかな）とかって言うお父さんの声が聞こえてくるようです。私達は十月に○○○という所へ引っ越しました。マミのおかげです。お手伝いもしてくれたし、資金面でも・・お父さんのおかげでもある訳です。ありがとうございました。家族4人で元気でマンション暮らしをしています。お父さんにも来て欲しかったです。お父さんが好きだったクリスマス、お正月がやってきます。私はいつもお父さんの分も紅白歌合戦をしっかり見ているよ。そして今年は見に行けるかもしれないのです。又いろいろ報告します。まっててね。まりあ |
そして去年、お父さんに見えるように、香典袋のおもてにこう書きました。
| お父さんが亡くなって十年が経ちました。マミはひとりで田舎でがんばって暮らしています。朝早くからなべころ坂を下り会社へ行き、私達の為に一生懸命働いて頂いてありがとうございました。私はホームページであの頃の事をエッセイに書く事が好きです。 まりあ |
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「夏になったら急に花が咲いて駅員も驚くぞ」私はそれを聞いて変なことを考えるなと思った。今となっては協力してあげてもよかったなんても思う。横浜の家があった駅にはロータリーのバス乗り場に歩道橋が蜘蛛の足のように掛かっている。線路沿いに金網が張ってあり花壇がある。そこへ花の種をばら撒いていると言った。夜遅くに怪しまれないようにポケットからパラパラっと撒いてくるそうだ。
ある日ツルがのびて、急に出来上がるモーニンググローリー（朝顔）のカーテン。
それが部屋から見えただろうに。１１月は月命日。お花の替わりに文を・・アップ。
