ボニー＆クライド

伊豆の別荘　土地家屋付きでだれかいりませんかー。

わけあって名義変更が出来ない土地家屋がある。母が住んでいたとはいうものの、遺品整理も住み、今は電気と水道だけは出るようにしているものの、電話をはずしＮＨＫやプロパンなどを気持ちに沿って徐々にはずした。役所と相談し、家を手放したい旨の相談を始めた。年２回見当で頼んでいる植木の剪定を申し込んだ。

私が留守中にシルバーセンターのおじさんから電話がきたそうだ。

家を見に行ったら電気がついている。

無人だが３か所に電気が点いて声を掛けても誰もいない

そりゃ無人だからね

去年は鍵を忘れて入れなかったというハプニングがあり、それから８カ月経っている。その時電気を消し忘れていたということか。又はだれかが入り込んだか、生活しているとか。こわいよー。

折り返し電話をした。

おじさんと長々話してやっと判明した。他の家を見に行っていたということ。おーーーーい！

『逃げろ―！』

と言い郵便局の駐車場から発進した。

暗証番号が判っている貯金は無事おろせて、マミが入院中からの費用や私達の新幹線代、宿泊代から、東京と田舎での２度の葬式代金、家の中を業者に片づけてもらう費用、更に法事をまかなった。

シルバーセンターに依頼する年２度の植え木剪定、庭の日よけや柱の故障修理代、その後の寺方面の費用、毎年寺へ行きついでに温泉へ泊る私達の費用までまかなえている。ｌ残りは定額貯金にした。私たちに迷惑を掛けないようにまとまったお金をちゃんと貯金していた。７８歳まで働いていたマミに感謝だ。

マミの貯金の残りを下ろす。下ろせなくて５年経っていたが挑戦して片づけようと思った。近所の郵便局へ行き、つい言った。

『ご本人ですか』

『母のなんです』

で、だめになった。書類を渡され家庭裁判所だかへ死亡通知所を持って行けだのなんだのと言われあきらめることにした。

が、少し遠くの郵便局で試そうと言うことになり、隣町の郵便局へ車で乗り付けた。私は母になりきった。住所を書き印鑑を押し提出した。駐車場では夫が車をすぐ発進できる位置において待機している。

『あれ？』

なんだか郵便局の中がざわついた。そして呼ばれた。スワっなんなんだ。やっぱり手配が回ってしまっていたのか。

『住所が少し抜けているんですが』

そうそう住所欄が短かったから郡のあとを一部抜かしたのだった。これくらい大丈夫だろうと思ってさ。町名番地まであるんだからと。

『それは失礼』

書いて再提出しひやひや待つ。

呼ばれた。

トレイには札束が乗っている。

『ありがとうございました』

両方で言い、１０万円を財布にしまった。急ぎ足で隣の駐車場へ向かう。呼びとめられそうでこわい。ガラス張りの窓から見られているようでこわい。窓に見えないように車の夫に見えるように腹のあたりで丸をつくる。

乗りこんで言う。

『おーけーでした。逃げろ―！』

『ほんとか！よし！』

発進して交差点を抜けてから笑った。

暗証番号がどうしてもわからないものがあり手をやいていた。

それは光熱費や固定資産税が自動で引かれている通帳だ。その口座へ何かの金額を振り込むように設定してしまって自然消滅させようとしている口座を太らせてしまった私は、妹から何度も言われ責められていたものだ。盗んだ車で強盗を繰り返していたボニー＆クライドのような郵便局での成功があり、調子づいてその口座も終わらせることにした。

６月宇宙船の中みたいな新宿コクーンタワーの中を通った。

そして２４階にある地方銀行へ行った。いつもの銀行とは違うスタイルで、多分融資を相談するとかそんなパターンが主かと思われる、ソファーがある狭いフロアーにパーテーションでの仕切りがたくさんあるという形態だ。

『引き落としたいのだが暗証番号を忘れた』

と言うと女の人が来てくれた。陰で操作している。

札束が乗っているトレイを持って来た。

『キャッシュカードを作りませんか？』

と言うのを、時間を取りたくなく早く去りたい気持の私達は断って４０万円を受け取り、逃げるようにエレベーターホールへ行く。固定資産税を引き落とせなくした。電気と水道も止め荒療治だ。更にあさって弁護士に無料相談をする予約も取った。伊豆の別荘廃棄作業本格開始！弁護士曰く、

『何年に一度の難しい案件だ、と。しかし膨大な数だ。今迄弁護士３人が無理だったとは』

３０分では資料を見せて内容を聞いてもらったまでで終わった。解決には程遠い。

『固定資産税５年分返してもらえば』

とのアドバイスあり。住んでいなかったのに支払っていたのだからと言って返してもらえばいい、などと仕事場で盛り上がる。返してくれたアカツキには、薬局の近所の『よろずや』にて貸し切りで飲み食い放題パーティーが行われる！

６年経ち、数か月前に停止した水道・電気を最後にすべて停止したマミ宅から、残った着物や瀬戸物の入れ物や数珠、はずした表札を持ち帰った。