黒いあざ

私がまだタバコを吸っていた頃、指が長いと褒められる。

『きれいな指ね』とね。

そこにいた５〜６人に納得される。そこで私は言うよ。

『ダイヤモンドが似合うよね。もらえなかったけど』とね。

ある薬剤師は客前で恥ずかしくないようにとＵＶカットのアームカバーをしてハンドクリームを使い手を大切にしている。片や指が短いからはずかしい、指が曲がっているのではずかしい、爪の形がどうも気に入らないと言い手を隠す人がいる。私は自分の手の形が好きだ。

　２０１５年の夏に手袋もせず草取りをしていたので日焼けによるものか又は加齢のせいか手の劣化の激しさに気付いた。手の甲を見ると色が黒くなり節も目立さらに血管が浮き出てシミが目立つ。このシミは老人班というらしい。そんな状態になってしまったが、しかし私は年齢が出るところは後姿のひじとみている。そこさえお手入れをしておけば黒ずまないようにしていればとりあえずよしとしようではないか。

　２０１５年の暮れに送られて来た鮭を前に考えている。新巻き鮭が捌けません。出刃包丁はないし勇気もありません。そう言うと前の家の助っ人Ｉ様がその役をしてくれると言うので頼みました。奥様が重い大きい包丁で切り分けてくれたそうです。きれいに捌いた鮭をおすそ分けしようと近所を回ります。

ウチの庭にいつも遊びに来ている野良ネコが付いてくる。冬の夕方、小さい紙袋をいくつか持った私の横に後ろにつかず離れず付いてくる。こんなシチュエーションはなかなかない。楽しくなり後ろを見ながら駆けてみた。あはは、あはは、おっと足がついていかない。前に向き直っていちにっさん、ザザー。スローモーションで倒れこんだ。

痛くてしばらく立ち上がれなかった。めまいもしたかもしれないと思う。人に見られたらはずかしいがこの辺は人が通らないし通らない時間だ、とはいえいつまでも倒れていてははずかしいので起き上がった。点検をしてみると厚地の生地だったが膝にも擦り傷ができた。これがツイードのロングスカートでなかったらと思うとゾッとする。腕の擦り傷からは血がにじみ垂れてもくる。ウチに戻ろうかとも思ったがあと二軒鮭を配らなければいけないので回ることにした。肘が一番被害を被ったようで痛さが増す。次の家で孫が出てきたが名前を告げ孫に渡して引き上げた。次の家で傷を見せてなにかをもらった。

一か月後も痛い。全体重を右のひじで受けたので骨に損傷を被ったかもしれない。三か月後、痛さはあるが内出血はあるが骨折ではないと思うまでに痛さは引いた。

近頃考える。年齢が出るところは後姿のひじだなと。

先日、転んでその肘に黒いあざができた。