クリスタルスカルカフス(術後一か月)
3月14日 113-79 113
『脈拍が多いから測り直しましょう』
と看護師さんに部屋に連れていかれる。このY病院に来るようになって2年経ち、受付を済ませたら診察前に機械で血圧を測るという手順にも慣れた。部屋の椅子に座って少し落ち着いてから測り直したけど107と大差なかった。
Y病院からの紹介状を持って、T病院で手術を受け、その返事をここY病院へ届けた。『やったんですね。しかも血管をバルーンで冷却するという最新式の方法で。頑張りましたね』
誉められた。経過観察はどちらでと聞くと、T病院の指示次第だそう。
T病院の診察室へ入る。
『先日はありがとうございました。』
『その後どうですか。』
『何も症状は出ません』
パソコンに向かってスクロールしている左手に指輪はない。
術後一か月の検診で、言うことは言わなくちゃと思い
『初めてのことばかりで、、、エッセイを書きました。』
おやっていう顔したかな。
『でも見せられないものになりました。』
と理由も言えず。それに続けてドクターが言った言葉は
『寝ていましたね。』
『1時間半の時です、か』
などと言ったりしたが、一ヶ月前の私を覚えているってことだね。
『そのあと部屋に戻ってももうろうとしていましたね。』
とか言った?
どうして私は言葉をはっきり覚えていないんだろうか。
エッセイを読みたいかとか、お礼のプレゼントを受け取ってくれるものなのか、とかどのように持って行こうかと考えていたら、紹介状の返事を持って行った時、あちらのドクターが誉めてくれた件、言い忘れました。まあ、医者としての言葉以外、つまり寝ていましたね、のくだりを引き出したということでよしとしよう。診察前の検査での波形も綺麗にそろっている心電図を見せてくれた。そして、いつも最後に手首の脈拍を測るね。術後は多くなるって言ってたね。
『術後1か月は不整脈が起こるかもしれないので運動を控え禁酒し検脈チェックをし脱水に注意し、治っても治ってないと思って生活する。延いてはそれが予防になる』
捨てようとした手帳のメモにあった言葉だ。いつ誰に聞いたか思い出してみたら、違うDrが病室の隣にいた患者に言っている言葉を聞いて手帳にメモっていたものだった。
『薬が二ヶ月分まるまるあります』
『では、5月末にループメモリ式イベントレコーダ検査をしましょう』
『スパイダーフラッシュですね』
『そう、そして6月に診察を。そこで問題なければ薬も止められる』
そのように計画を立ててくれた。そしてY病院に戻されるのか、それともこちらの病院へ経過観察で通うのか、更には5年後位に緊急でERか。
エッセイを渡すか渡さないか。伏線を張る布石を置く意味で渡しておけばいつか役に立つかもしれない。テディはやめとけって言う。結婚してますで終わりだって言う。Eに聞こうかな。
チャンスが来た。
『どうしたらいい?必要なければ渡さないけど』
『必要ってなに。配りたきゃ配りゃいいじゃない』
あげたいプレゼントは『クリスタルスカルカフス』¥25,510-
Eは言うね。
『バツゲームか!』