妹（イメルダ）　パターンB

その日、エメラルドカットのきらめきに目がくらんだ。
恵比寿ガーデンプレイス、ショーウィンドウのダイヤモンドリングの前で立ち止まった指できらめきを確かめ、値段を見て立ち去った。


ー婚約時代、お誕生日にはルビー、エメラルドなどの指輪を買ってもらっていたー
ー夫はお誕生日には花とケーキとワインを買って帰る。それはウン十年経った今でも続いているー
二歳違いの妹は街に出た時にはステキなアクセサリーを探すと言う。ちょっと値が張るものでも又安いものでもアクセサリーに関して自信があり、並んでいる中でもいいもの、ステキなものはすぐわかると言う。妹は趣味で集めているうちに貴金属をみる目が肥えたようだ。

大きな黒いジュエリーボックスにはイヤリング、ネックレス、ブローチ、そして指輪がぎっしり入っている。十数万円の漆のブローチは近頃勇気を出して購入したものだ。ジュエリーボックスに入りきらない整理していないものも袋に入れてたくさんあった。長い時間をかけてひとつひとつ吟味して満足し買い集めてきたものには思い出もある。それらをみると幸せな気持ちになったと言う。その中でも一番高価なものはなんといっても婚約指輪だ。ダイヤモンド選択の基準に４Ｃというものがあるが「カラット」「カラー」「クラリティー」「カット」など最高級のもので高島屋には今でもその写真が保存されているそうだ。私もそんな妹の為にスペインのお土産として十字架や琥珀のペンダントを買ってきてあげたものだ。


「三千足なんてもっていません。千六十足です」　
元フィリピン大統領夫人として悪名をとどろかせたイメルダ・マルコスの膨大な靴（シュ−ズ）のコレクション。フィリピン、イメルダ・マルコス元大統領夫人から没収した宝飾品コレクションをマルコス政権が１９８６年に崩壊した以来初めて報道陣に公開した、という記事が今日の新聞に載っていた。コレクションは全部で７６０点あり、１１月にはジュネーブで競売にかけ、１０００万ドル程度の売り上げを見込んでいるという。

『私の妹は家族から“イメルダ”とよばれているそうだ。それは靴に限った事ではない。アクセサリー、スカーフ、バッグ、食器、飾り物、と金に飽かせてなんでもいっぱい集める。どっさりあるアクセサリーの中から、遊びに行くたびにすこしづついただいて帰る私。スカーフもコレクションを見せてもらい、「わあ、これすてき」と言うと持っていきなさいとくれる。せっかく集めたものなのに気前もよい。まさにイメルダ夫人？』

トパーズのカフスボタンをパピに、アメジストのリングをマミにプレゼントして妹は結婚した。私にダイヤモンドのピアスをと言ったけどおじけづいた私は何度も遠慮した。そんな高価なものを妹に買わせることにも申し訳なく思ったからだが、それにしてもステキなことを考えたものだ。私の結婚後３人になった家族、妹は両親と駅前の焼肉屋で最後のお礼の食事もしたそうだ。そして豪華な結婚式費用は妹と彼と２人で支払いをしていた。私はといえば結婚式費用も親に出させ食事会もせずお礼すら言わずうかれて家を出たものだった。



横浜方面で近頃、中国窃盗団が横行しているそうだ。警察は懸命に捜査し、追い詰めているところだと言う。

「ウチはベランダの鍵も掛けないし窓を開けっ放しで出掛けたりもする」

と言ったらおこられた。

その中国窃盗団が妹の家に入ったとしたらー。

「パパはオメガの時計だけで自分の大切にしているマーチンのギターなどが無事だったから安心しているし・・子どもは香水やノートパソコンを持っていかれたけど、パソコンは買ったばかりなので保証されそうだと安心している。私は趣味で集めていた貴金属をすべて持っていかれたー」

とちょっと涙声で電話がくるのだろう、か。

「カメオのブローチもあったのにごめんね」

新婚旅行のお土産で私からもらったというものがあったと、すっかり忘れている私は謝られるのだろう、か。だんなのお母様も妹が気落ちしているだろうと心配して電話もできなかったりするのだろうか。私も、

「これから始めなさい」

と言ってもうひとつあるスペイン土産の琥珀のペンダントをプレゼントするのだろうか。

家族全員が留守中の夕方に、もし、入られたとしたらー。

マンション一階のベランダのガラスを破って入られたとしたらー。