カラーパープル（グレ）

風呂から出るとバスローブを着る。

世の中では、バスローブにワインとかって煙たがられているが、わたしにとってバスローブは昔から必需だ。それは子供が赤ちゃんの時から続いている。風呂上りの子供にシッカロールをつけたりセットしておいた下着やおむつを着つける時、一緒に風呂から出てきた私が、はだかでやるわけにはいかない。そこでバスローブをさっと羽織り作業をこなすわけだ。二人目が生まれた時には、上の子にもバスローブを着せる。そして下の子のもろもろをまず着つける。そんなわけでもバスローブは必需と言える。

風呂から出たあと仕事に行く時には、化粧をし、髪を乾かし、服に着替える。そしてシューっと香水を一吹きしてからガムをくわえて出発するのが決まりだ。香水はかなり昔から決まっている。それはフローラルとかではなく、少しお香の香りがするもので、昔見たミュージカル『ヘアー』などが思い起こされ、それは王侯貴族の女性の真のエスプリを感じさせるような圧倒的な気品がある香りだとか。そしてその香水の販売はすでに打ち切られている。

好きな香りが決まり、好きな色などが言えるようになるのに数十年かかった。紫がスキとは非常にはずかしくひとには言えないことだった。色占いでは必ず欲求不満となっていて、そう思われるのは非常に恥ずかしいことだと思っていた。色占いでも紫は避けていた。

フラメンコのレッスンをしていた頃、同じ教室で紫好きな子に出会った。御主人からプレゼントされたというバッグは紫色のスエードでできていた。そんな魅力的なものを持ってもいいんだと目からうろこだったのを覚えている。

発表会で衣装を作ることになり紫を心理戦で取り合った。その時私は強く紫色を選んだ。フリルは反対色のブルーで出来上がって来たが、スカートは紫でレオタードも同じ色で揃えて満足だった。その頃から好きな物、好きな色などをはっきり宣言できるようになった。

私は自己紹介としてこのように言っている。

『その人は歌が好き、踊りが好き、主食はナッツ、夜更かし好き、チェーンスモーカー、洋服好き、海が好き、色なら紫と銀、酒ならワイン、花なら芍薬、香水なら・・・』

踊りは踊らなくなったし、なによりチェーンスモーカーではなくなった。紹介文の中身もだいぶ変化してきているが、

好きな香水は変わらない。それは古き良きフランス気質を想わせる崇高な香り。それは、アルデハイド、バラ、ジャスミン、オランダスイセン、白樺、麝香、タバコの葉、オークモス、ムスク、アンバーなど数多くの成分からなる、トップ、ミドル、ラストの区別がない、一定した香り。その香水は、現在販売されていないが、ネットオークションで集めたので、私が死ぬまでもちそうなくらいの在庫がある。それは、シプレー系の名香で「強情、わがまま」と言った意味の名であり大人のためだけの香水である。

好きなものが固まってくるのは人生半分を過ぎたころだ。さらにそれを口にできるようになるのには、更に１０年か。そして今日もマダム・グレのこの香水をウエストあたりにひと吹きし、ガムをくわえて家を出る。