ビーノ　２（ツーリング）

バイク達が走り去る。
「Ｍ、追いかけろ！」
「追い抜け！」
と話しながら見送る。
黒のビーノはだまってそこにいる。

サドルのほころびがだんだん大きくなる。台風の雨をすっかり吸い込む。とりあえずカバーを買ってきてくれて、バイクやさんに相談してみるとおねえが言う。

名義変更のお知らせが来た。廃車か名義変更をと。ひとりにひとつと決まっているナンバープレートを取り外せと言う。標識交付の証明書と印鑑、免許証を持って役所へ来て下さいとそれは妹から姉への相続となると言う。
こけた傷
式場の祭壇の横に飾られたそれ
洗車した。蚊に食われた。
やけに目立つナンバーワンであるそのプレートはもうすぐなくなる。ひとりひとつのナンバーだと言う。バイクというＭの財産はお姉ちゃんが相続する。


＜Ｍのバイクは黒の「ＶＩＮＯ」だ。Ｃのバイク赤の「ジョルカブ」、Ｍｉのバイク「ＣＲＥＡ」白、Ｓｉのバイク免許取得中。Ｔｅｃｈのバイク、ガチャガチャ黒ぎみ、ＥｃｈのバイクボロボロのバイクＪＯＧかな黒、Ｍｏのバイク免許取得中。そしてＭｏのバイクはクリーム色のホンダリトルカブだった。＞

『Ｍチャンネル』「ビーノ」を仕上げるため、新しく免許を取った2人の車種を聞く。
「Ｓｉのバイクは？」
それを聞いてそれを書き入れたらその文をアップしようと考える。購入した、もう乗っている、と聞くが、
「車種は？」
「うーん、なんだっけな」
「ま、本人から」
「ナイショ」
などと言うので
「Ｓｉのバイク　車種は・・・未だ聞いていない」
としてその文を締めくくった。
そしてアップした。



ＣとＳｉが家に来た。バイクで来たという。
Ｍのスピードがすごいと話す。特に走り出しがすごいと。ジョルカブは変速にいちいち入れなくてはいけないそうで、信号で止まって追いついても又離される。待っててくれて追いついても又離される。「Ｍ待ってよう」って・・（笑い）。
Ｍは止まっている車の左側にもどんどん入っていく。ジョルカブもついていくと、車が走り出し怖い。その頃Ｍはもう車の無いところを走っている（笑い）。そしてCはつい最近知ったことを友達に受け売りする。「ツーリングはふたりっていう意味じゃないんだよ」（笑い）

車種を知った日のママからＭへの手紙はこうだ。
＜速報　Ｓｉのバイクの車種が判明した。Ｃが教えてくれないわけが分かった。「本人から聞くまでおたのしみに」「ナイショ」って何回聞いても言わなかったんだよ。今日Ｍｉに聞いたら、「黒のビーノ」って。「それはＭのでしょ」「ううん、Ｓｉも黒のビーノ」って・・。聞いちゃった。なんだかうれしくて泣いちゃったよ。その日鬼武者に書かれたノートの言葉もうれしくって泣いちゃったよ。まいった。＞

走行距離は2度ほどリセットしたと聞いた。９９９９９９を２回、そして今「137,173キロメートル」。
そんなにそんなに愛車を駆ってどこへ行ったやら・・・それはＭだけが知っている。ホントはほとんどみんなが知っている。

Ｓｉのビーノと対面するためにマンションの一階まで降りてお見送りをする。バイクの子達の写真を撮った。赤いバイクとC、,黒いバイクとＳｉ。そしてバイク達は走り去った。免許を取り、初めてバイクを見せに来てくれた。車種はＭと同じビーノだった。
バイク達が走り去る。
「Ｍ、追いかけろ！」
「追い抜け！」
と話しながら見送る。
黒のビーノはだまってそこにいる。エレベーターで部屋まで昇りながら、これからバイクのある青春を送るであろう友たちへ、羨望の気持ちで一杯になった。



Ｍ代理でお姉ちゃんがツーリングだ。保育園の先生たちと免許取り立ての２人と約束していたツーリングに出掛けていった。ジャンパーを２枚着込み、手袋をし、その日は１０月でも急に寒く冷え込んでツーリングには大変な日であろうと思われた。楽しさと辛さと寒さに耐えながらツーリングをこなしたのだろう。

その日私と夫はまだ数回目である墓参りのため茨城に泊まっていた。翌日家に帰ってわかったことがある。昨夜かなり遅い時間にツーリングを終えて自宅に帰ってきた時、お姉ちゃんが一番にＭに報告したのであろうということだ。それを仏壇のそばに置きっぱなしの２枚のジャンパーがちゃんと物語っていたのだから。

ま、その日に限ったことではないけれど・・・。