パズル（台風）

それは、限りなくシンプルだ。
Ｍ特製のお好み焼きの作り方は、まずフライパンにバターを敷き、小麦粉に水を足したものを薄めにのばす。水の加減がミソだ。具はかつおぶしのみ。そこにマヨネーズとしょうゆをかける。これをしょっちゅう作る。何度作ったか知れないそのフライパンを新しくした。何年もつかってテフロン加工も効かなくなって赤い色も見えないほど真っ黒になって手元も油が固まってこびりつきそんなフライパンになっていたのだからしょうがない。
とはいうものの捨てるときは躊躇した。でも新しいフライパンを買ってきてくれたおねえちゃんは、台所のスポンジなんかもどんどんきれいなものに替えなくちゃねと言う。家の中が変わる。Ｍの知らない服ができる。ママの髪型が変わる。フライパンが変わる。さんざんおこのを作ったＭのフライパンが変わった。躊躇を感じ取られないように昔は赤かったフライパンを燃えないごみの袋に入れた。それでいいと思う。



夜、旅行の報告にＣが来る。
昼、月命日10日ねらいのＭｏが来る。
保育園の父兄から七五三の報告がMの携帯メールに入ったそうだ。

Ａママが来る。さっき帰ったばかりなのに又来た。手にはビニール袋を持っている。墓のガラス瓶に雨が入るのでいいカバーがないかが悩みだと言ったらアイデアを持って来てくれた。パパが食事中でも、居間の床に座り込んで工作をする。鋏を使いセロテープを使う。結局採用されずに帰ることになる。しかしこんなに心配してくれるのはありがたいことだと思う。

銀座の画廊で開かれる個展の招待状が来る。宛先には家族４人の名前が並んでいる。
外出から帰ったら玄関の郵便受けにブーケがあった。携帯メールで御礼を言う。夜になってお線香をあげたいと来てくれた。この頃寒くなって花の持ちもよくＡママからのブーケは今３個も飾られている。Ａママはお友達のＡのママだけど、Ｍの友達でもあるそうだ。


そして今日はＮｏ、Ｍｉ、Ｙ、Ｋ、Ｎａが来た。

YはＭの夢をみたという。『Ｍ−Ｃｈａｎｎｅｌ』「コンフリクト」（葛藤の夏）で、Ｍが「ゼッタイ泣くからよんでみな」と言った「天国の本屋」を購入したという。『Ｍーｃｈａｎｎｅｌ』の「ＮＥＷ」を見て泣いたというYは墓の心配もしてくれる。遠慮がちに小さい声ではずかしそうに、台風でガラス瓶が倒れていやしないかと言う。

今年日本に上陸した台風は９個目となり、年間最多上陸記録を塗り替えたが、やはり台風で心配と今週急にお姉ちゃんが墓へ行った。往復鈍行で時間が掛かったが疲れはしない、墓は荒れた様子はなかったと安心して帰ってきた。その時スカーフを持っていってもらった。Mのためにはピンクのバラ模様、そよおばあちゃんのために小花模様のスカーフだ。それを墓に掛けたシャメールを送ってくれた。すれちがいで帰ってきたという夫の妹弟たちが花をたくさん供えてくれたが、その前に白い百合の花を供えてくれた人がいると報告してくれた。
台風２２号は１０月１０日午前９時、温帯低気圧に変わった。１１日、日曜日にお姉ちゃんがひとりで行き、確認してきたと言うとＹはほっとしたようにうなづいた。

久しぶりに来てくれたＫは最近勤めた仕事場の様子を話している。「すこしやせたんじゃない？」とパパに言われて居間に置いてある体重計に乗っていた。仕事もきつかったようでホントに少しやせたように見えた。そしてその日Ｍの部屋から自分の洋服を２枚持ち帰った。

Ｎｏはいつも明るい。自分が書いて墓に置いてきた手紙のチェックをする。雨で墓のガラス瓶に水が入り込みびしょびしょだったので持ち帰り、仏壇においてあった封がしてある手紙をチェックして、やっぱりこれはママ達には見せられないという結果が出て、そんなものがあるのかとみなは思っただろうが、仏壇左の「墓そのもの箱」に収められる。そんなものが仏壇左側にはある。

Ｍｉは女の子らしくテーブルにも気を使っていてくれる。先日行った、Ｍも連れて行くと言っていた富士急ハイランドへの旅行の話をしてくれる。

仕事場から遅れて到着したＮａはメッセージノートである「鬼武者」に言葉を書きたいという。パソコンの場所で長い時間をかけていた。詩も書いちゃったと言っていた。


炙りサーモンの刺身をつまみながら、焼酎の麦茶割を飲みながら、ピザを食べながら、カロリーゼロ、カロリーオフダイエットコーラを飲みながら、Ｋ１、ダイナマイトの話でしばしもり上がる。サラダ２種を食べながら、黒糖の梅酒を呑みながら、吉祥寺で母の日のプレゼントとして妖精キットを買った時の様子がわかる。

「パズルパズル」と言う、パズル好きの話も聞く。Ｍはパズルの天才だ。これは金にならないものか、と家族みんなで言ったものだ。裏返してやったり、真中から始めたり、むづかしくしてやっても早い。1000ピースを何パターンも買った。立体的なものもある。そしてピースがひとつどうしても見つからなかった話も聞く。ピアノも動かしベッドも動かし・・てもなかったと。
動くＭが見える。みんなの心の中で動いて話して笑っているＭが見える。これは親として嬉しい事だ。その瞬間をすこしでもたくさん欲しくて皆の会話の中から拾い集めている自分に気付く。まるでピースを組み立てているパズルのようだ。それは決して出来上がらないパズルだけれど・・。

持って来てくれた「ｂｅａｒｄ　ｐａｐａｓ」のシュークリームを食べながらお茶を飲み、ミカンを食べデザートの柿を食べる。そうして今日も皆はひとりづつＭに挨拶をしてから、明日になれば明るい太陽が昇る夜の中へ、現実の世界へと玄関を出て行った。



















この状況にMがいないことがまだつらいとお姉ちゃんはひとしきり落ち込み、無念さを味わいながら悔やみながら、なかばあきらめながら、寝る。私はグラスを洗いながらためいきをつき、まだ寝ない。パパはとっくに寝ている。