ネネモナ（おしゃれ）

「そうそう、これです」
その時着ていた服は
「初めて会った時着ていたのは、茶色いデニムのシャツワンピースだった」
と言う。茶色っぽいワンピースはいくつかある。
「裏がヒョウ柄の？」
「ううん、それではないたしかローウエストにベルトがついているものだった」
と言う。Ｍの部屋のクローゼットを開けてみた。これと思われるものを持って居間に行く。

〈ＮＥＮＥＭＯＮＡ〉のタグがある。一瞬〈アナスイ〉かと思ったタグは、〈ＣＯＣＯＬＵＬＵ〉の姉妹店だとかＹの説明を受ける。サイズはスモールだ。そしてその初めて会った日のことを話してくれた。
アパレルに興味があり〈COACH〉のマヌカンであるＹちゃんは、そのワンピースを着て、ウィッグをつけ、黒いブーツといういでたちでテーブルの向い側にいたＭに、一目ぼれしたそうだ。モデルのようなＹちゃんに「かわいい、Ｙのタイプだ」と言われたＭはさぞくすぐったかったに違いない。

保母さんはシャカパンとＴシャツやトレーナー、ジャンパーとバッシュー。ユニフォームはエプロンだし金がかからなくていいねと思っていた。組み合わせがうまいとも思っていた。若さからか何を着ても似合う。キャミソール型の服は親としてあまり着ないで欲しいと実は思っていたのだが。ソックスは、ばあばからの宅急便でいくらでも送られてくるものを消化していてくれた。ただ、色が茶色だの紺だのベージュだのとババクサイものばかりでかわいそうだったなと思う。バイク通勤では、ばあばからの宅急便の厚手のタイツ関係が大いに役立った。寒がりなのか冬には３枚もズボンを重ねていたと友達は笑う。

〈OLIVE des OLIVE〉、〈ラストシーン〉、渋谷１０９で買ったと思われる服もある。小さいサイズのスーツも沢山ある。しかもＳサイズはバーゲンでは買えないので高い。
近頃の若者らしく、〈ヴィトン〉のバッグ、財布、キーホルダーなども愛用しているし、〈プラダ〉のバッグもある。白いサンダルはかかとが高くダイヤがこぼれそうに光っている。いい香りの香水もつけて、まつげもラメで口紅もステキな色できめていることも多いこの頃だった。人生のピークに欲しがると私は思っている、白いコートも数枚ある。

美容院へ通いすぎる。茶髪にしたり、黒く戻したり、フワフワカールにしたり、ストレートにしたり、行ったばかりなのに又行ってくると言う。「せっかく伸びてすてきになってるのに」「ママにすてきと言われたらおしまい」などと若者のセンスがわからない年寄り扱いされる。「いってきまーす！」
仕事が終わって会議が終わって、そんな時間から青山の美容院へも行く。友達が働いているところだそうだ。

「使う？」
と笑いながら、Ｍの香水、使いかけの〈GUCCI〉の ENVYをママにくれた。「たしか香水集めをしていたはずだけど」と頭の片隅で思いながらも、その上等の香りに惹かれてありがたく頂く。
「これ使う？」
とピンクのファイルケースをくれた。ファイルはいくつあっても便利なものだ。
ビーズのバッグをしばらくしてからだまって笑って戻された。ママがあげた中国土産だったが気に入らなかったのかと思って「おやおや」と苦笑いで受け取った。
園で使うからとウェディングドレスを持っていった。それを着た姿をある人の携帯画面で見た。
たくさんあるぬいぐるみを園に持っていった。
あの頃、持ち物を整理していた訳でもないだろうに・・。

Ｍの白いコートを貸した。ピンクのワンピースをお友達の結婚披露宴出席の為貸した。Ｍも出席したであろう同僚の先生やお友達の結婚式がどんどん通り過ぎてゆく。それがどんどん増えてゆく。スノボーへ行く為トレーナーを買おうと思ったけど、Ｍが沢山持っていたと思い出し借りたおねえ。修学旅行用に買ったというダウンの大きいコートを長い間Ｍが借りていたが、「バイク用に使ってください」と彼から譲り受け、今おねえちゃんが使っている。

Ｎａグループにおねえちゃんも入ってあみだくじを始めた。何度やってもＭｉになる。その様子を見て去年の・・もうおととしになるのか・・Ｍの２３歳のお誕生日の様子が浮んだ。テーブルにはピザの箱がふたつある。グラスと皿と・・そしてこのメンバーがいる。このあとビリヤードをしに出かけて行ったっけ。今日のあみだくじは「青木さやかのセミヌード写真集を買う人」が目的だった。

ＮｏとＭｏが来た。近頃の悩みを話した。
Ｍは友達の幸せを願う子だと言う。やきもちをやくことなどないのも不思議。「あの子どう？」とくっつけることが好きだなどと笑う。仲人根性があると笑う。悩みを打ち明けると本人より先に泣いていると言う。

こんなに姉妹が仲良しというのは見たことがないと言われる。
京都へひとり旅をし卒業旅行としてＭと行ったルートを辿ったおねえちゃんが何年ぶりかで熱を出した。そして今日は涙ボロボロで帰ってきた。携帯電話のメモリーやムービーが消去されてしまったと。故障したので機種変更の前に修理をしようとしていた。直ったら中身を全部写す為の何かも用意できていたとか。もう少しだったのに、ショップにはあんなに注意してとお願いしたのに、と泣く。

家族に内緒でひとりで墓参りにも行っている様子だ。家族を助けながら自分がまいっているようすがある。又、墓へ行ったことを、そこで偶然会った人から、今日聞いた。携帯のメモリーが消えてしまったことを報告し墓で泣いてきたのだろうか。そんなおねえちゃんがジムに通い始めた。紛らせるための手段を探していたのだろう。逃げるものを探していたのだろう。辛さが充満し見つけたのだろう。パパはゴルフに熱中している。ママはホームページで文を書きながら、短時間の仕事を続けることで、普通の人のふりをしている。でも言えない言葉が胸にたまっていき、書けないことが心にたまっていき、「魔女の本心」と題して吐き出すことを覚えた。それは人の目にふれることは、絶対にない。

Ｍは「世界で二番目に幸せになる」と言っていた。
一番目は数年前のテレビドラマ「ムコ殿」の長瀬智也と竹内結子のふたりだそうだ。表向きはクールでハンサムな大スター、でも実態はダサくて熱くて涙もろい人情男という設定の、桜庭裕一郎とさくらのふたりを自分達と重ね合わせていたのか。重大な変化は一見平和な動きの中から起こりやすいものであること、よくない事は、時として、幸福を装うことからおこるものである。突然の変化、損失、脱落、親しい関係や友情の終わり、心に消えない傷を負い、新しい時代の始まり、死の可能性のある病、見せかけの幸福。それはタロットカード13番目の意味です。

たった　８，７６６日、２４年だったが人生を楽しんだ。

Ｍと約束してたよね・・・。
「お互いが結婚するまで、飲み会（出会いの場）に呼び合おうネ」
「お互い幸せになろうネ」
って・・・。

今日仏壇を初めて見たＹは泣いた。
話し始めてまた泣いた。

パパの携帯待ち受け画面はＭだ。
ママはパソコンの中で考える。