スクールジャック（フリー参観日）
その日私は、月に２回通っている夜間の絵画教室の授業と、先生を交えての飲み会に出席していた。飲み会も中盤、電車の時間がまずい。そろそろオイトマしなくては・・。画材一式を抱え、ほろ酔いのまま山手線へ乗り込む。池袋から日暮里。まだ顔が熱い・・。常磐線に乗り換えて揺られること約４０〜５０分。
常磐線終電車、チカチカ消える電気に少し怯えながら、一人茨城‘佐貫‘に向かっていた。明日のDちゃんの「授業参観」を観に行く為だ。と言っても、Dちゃんは生徒ではなく先生の方。その春大学を卒業し、地元茨城の小学校の先生になったばかり。
「Dの授業参観があるんだけど行かない？♪」
「なにそれ！行くー！♪」
Mの誘いに今思えばびっくりする程何も考えずにOKしていた私。何故なら私は一度もそのDちゃんに会ったことがなかったからだ。存在だけは知っていた。Mから聞いていた。でも直接話したこともないし、顔すら見たこともない。Dちゃんだっていきなり知らない女が自分の授業に来たら”お前誰だ・・！？”ってことになる。でもそんなことお構いなし（笑）、Mと一緒、何かが起こりそう！楽しそう！！それだけで二人の茨城への旅決定☆☆☆
佐貫到着！さすがに顔も普通の色に（ホッ・・）一足先に佐貫入りしていたMとDちゃんが車で駅まで迎えにきてくれた。「M−！！」 「R−！！」 一気にテンションが上がり駆け寄る二人。お互い会うのは約１ヶ月ぶり。それがこんな風に茨城での待ち合わせになるなんてなんか不思議だねー、そう話した。
Mに紹介されてこの時Dちゃんと初会い！初めに言葉をどう交わしたかは忘れたが、第一印象は「イメージと違う・・！」メガネかけてて雰囲気真面目そう・・？なぁ〜んて騙された（笑）。Mと一緒にハイテンション＆マシンガントークのDちゃん。さすがMの友達だ〜。イメージ通り（笑） 初対面でもハイにしゃべりまくるDちゃんと私を見て「やっぱりDとRは合うと思ってたんだぁ〜♪」そう言うMは嬉しそうで可愛い。いつもMは自分の友達と私を引き合わせてくれる。Mの友達が私の友達にもなる。それがMもあたしもいつもすごく嬉しかった。
近くのセブンイレブンでお菓子、ジュースを買い込む。それから車で走ること数分？数十秒？あっという間にDちゃんのマンションに到着。２階建て、１階はしっこがDちゃんの部屋。
「おじゃましま〜す」 ・・・広い！キレイ・・とは言いにくい（笑）が、とっても広くて羨ましい感じ。「腹減った〜」とカップラーメンを食べ始めるDちゃん、逃さず「Mもー！！」と奪い取って食べるM☆ Dちゃんが寝たあともMと私でバレないようにシャボン玉大会・・・♪
Dの学校には学期に１度、フリー参観日というものがある。フリー参観日とは、保護者や地域の方が自由に学校を出入りでき、子どもたちの様子を見ることができる日のことで、本校のウリでもある。担任にしてみれば、この日ほど憂鬱な日はない。朝の会での教師の話から給食・清掃時の教師の動き、昼休みの過ごし方など、すみずみまで保護者の目が光っており、プライバシーなどあったもんじゃない。普段子どもに対して、
「おめえはよー！！！！！！」
なんて言葉遣いをしているDでさえ、この日は、
「〜くん、先生の話を聞かなきゃだめでしょ」
なんて歯がうくような話し方をする。というよりせざるをえない。教師である以上、学校にいるときぐらいは常に丁寧な言葉遣いをしたいものだが・・・。 一昨年の５月。人生初のフリー参観日。教員１年目のDにとっては胃がきりきりするほどの緊張。前日から「明日は朝これを話して、１時間目にこれをやって・・」と細かい計画をノートにびっしりと書き留める。しかし、前日の夜はまったく仕事にならなかった・・。
フリー参観日前日の夜、東京からMがやってきた。目的は翌日のDの授業をみること・・半分冷やかしもあったのか！？ただでさえ緊張しているのに、Mの前でやる授業なんて・・考えれば考えるほど、失敗をやらかす自分を想像してしまう。「友達のRも後からくるから☆」「エーーーーー」まだ会ったこともないRも明日見に来るという。しばらく駅でRを待っている間、Dはもう明日のことを考える余地がなかった→開き直っていた。しばらくしてRが到着。初対面だというのに「おひさー。元気してた？」などとギャグをとばし、３人でワイワイ夜を過ごした。
翌朝、教師モードに切り替え、普段はジャージ姿のD先生がスーツ姿のD先生に変身した。緊張気味に登校し、早めに教室へ行き、朝の会をする。まだ保護者はだれも教室には来ていない。さらっと朝の先生のお話を終え、１時間目を始める。
１時間目 算数
Dの専門教科は数学。大学で４年間みっちり数学は勉強した（つもり）。今学習している内容は「三角形と角」。ちょうどこの日はまとめの時間であった。教科書には正三角形と二等辺三角形のしきつめ図が載っていた。Dの大学の卒論は「平面図形によるしきつめの指導について」。ビンゴ！大学時代に駆使したプロジェクターでさまざまなしきつめ図を提示する。授業が始まってプロジェクターを準備していると、記念すべき第１号のお客様が教室に入ってきた・・・ってMとRかよ！！
目で「来んの早すぎじゃね？」と合図を送ったが、ニヤニヤしながら知らんふり。授業中であるので、後ろの２人ばかりを気にしてはいられない。気持ちを切り替えて授業を進める。 ・・その後、保護者が何人か見に来たが、あきらかに教室にMとRがいるのはおかしい。保護者にしてみれば、見たこともない人が教室にいるのだから・・・・それもずっと。Dは知らぬふりをして授業を進めた・・。やっと１時間目が終わり、一息つく。保護者と軽く言葉を交わし、職員室へ。２時間目は専科の先生の授業なので、Dは職員室で事務をこなす。
Mの感想 「Dの授業は怖い。もっとやさしく！！隣の保護者が「D先生若いのにすごいね・・」ｅｔｃっていってたよ。」だって。そりゃ彼女に授業見られてたら表情もこわばって声も大きくなるわ！
３時間目 親子レクレーション
３時間目は体育館で親子レクレーション。親子レクレーションとは、子どもたちと親と先生とでレクレーションをする時間。１年に１回あるのだが、フリー参観日にということで、この日に行なわれた。レクの内容は、ジャンケン大会＆新聞紙を使った簡単な遊び。内容はシンプルな遊びだが、子どもたちにはバカ受け。
「それでは、Ｄ先生、ステージへ。先生とジャンケン大会をします。勝った人だけたっててください」
役員さんにそのように言われ、Ｄはステージへ。
「じゃあみんな行くよ！ジャーンケーン・・」
って体育館の後ろを見るとＭとＲがチョコンと座ってジャンケンをしている。
「お前ら１時間見たら帰るっていったべよ！」
Ｄは内心でそのように思いながらもジャンケンをし続けた・・。
チャンピオンが決まるまで続いたジャンケン大会。その１回ごとに勝った！負けた！と一喜一憂しながら動こうとしないＭとＲ。Ｄは困りながらも先生を演じ続けた・・。
４時間目 親子レクの作文
４時間目は教室で先ほど行ったレクの作文。原稿用紙を配り、Ｄは机間巡視。何を書いたらよいかわからない子に指導をしたり、漢字の間違いを指摘したり・・先生らしくふるまった。
「書き終わった子はせっかくなので、おうちの人に見てもらおう」
Ｄは子どもたちに呼びかけた。続々と書き終わった子がおうちの人や友達のお母さんのところに見せに行く。
「見てもらったら、一言コメントを書いてもらってね！」
・・案の定、ＭとＲは４時間目も教室にいる。もうＤもいることに慣れてきた。すると、ある子がトコトコとＭのところへ作文を持っていった。Ｍは作文を一通り読んでコメントを書く。Ｄはそのことに気づいたが、特に見に行ったりはせず、別の子の指導にあたった。
授業が終わり、作文を集める。書き終わらなかった子は宿題。 給食準備に入って騒がしくなった教室でＤはパラパラと作文を見る。
「〜ちゃん、一緒に遊べて楽しかったね」
「新聞紙の遊び、今度はおうちでやってみよう」
などど、保護者が書いたであろうコメントが続く中、たった一言だけのコメントが目にとまった。
「ステキ ＜周りに花丸＞」
放課後、提出された作文を読み、一人一人コメントを書く。４０人もいるからこれがまた大仕事。例の作文が出てきた。Ｄは「ステキ」と書いた犯人は・・・と思いながら作文を読む。・・あとから聞くとその犯人はやはりＭ。 作文読んでのコメントが「ステキ」て・・・・Ｄは鼻で笑いながら赤でコメントを書き加えた・・。
翌日、授業参観日当日。Dちゃんは先に出勤。そのあとMとタクシーで小学校に向かう。とってもいい天気☆陽気な運転手さんと３人、車内は和やかムード。学校は広々、自然に囲まれている。正門を通り真っ直ぐ校舎のほうへ進む。左には校庭が広がっている。やっぱり東京のより広い☆
「こちらご記入お願いします」
下駄箱の受付にて。「？？」紙を見ると”保護者の方””地域の方”どちらかに丸を付けなければいけないらしい。ギクッ・・。ど、どちらでもありません・・・そう思いつつ隣のMとアイコンタクト。シラ〜っと”地域の方”に丸を付ける。やや冷や汗。。
Dちゃんが受け持つのは４年生。４０人のクラス１クラスだけ。緊張しつつ教室の扉を開ける。ガラガラッ・・。クラスいっぱいの生徒の視線が一斉に集まる。
「やばいM！うちら１番乗りだよ！！」
コソッとMに言う。まだ誰も来ていない。どう見ても保護者には見えない怪しい私たち二人に生徒の視線はなかなか外れない。授業参観だってのにどっちが見られてんだか分かりゃしない。。
１時間目は算数。図形の「敷き詰め」の授業。 ”先生”なDちゃんは黒のスーツ姿。落ち着いた口調で授業を進めている。昨日みたいにバカは全く言わない（当たり前）。なんだか別人みたい。そんなDちゃんの姿に顔を見合わせてニンマリしつつ目を合わせようと二人で熱い視線を送る。さらに怪しい二人（笑）。生徒一人一人に優しく教えるE（←Dちゃん名字）先生。ついこの前まで自分は生徒、ものは教わる立場だったのに、気づけば今はこうして同い年の友達が教える立場になっている・・。なんだか一人しみじみ。
２時間目にもなるとお母さん方も増えてきた。そんな教室にいるとなんだか自分も”お母さん”になったような気分☆気づくと生徒の何人かと仲良くなっているM。さすが保育士！いや、さすがM！？相変わらずMはホント誰とでもすぐ仲良くなれるのね〜。羨ましいっ！３時間目、教室を出て体育館での親子レクレーション。参加したくてもできない”地域の方”なMと私は、体育館１番後ろの出入り口の所で少し寂しく見学（笑）Dちゃんは壇上に上がりレクの説明をしてる。生徒のみんな、お父さん・お母さんと一緒に居れてすごく嬉しそう☆「じゃーんけーんぽんっ！」先生（Dちゃん）と生徒たちのじゃんけん大会（？）が始まった。生徒＆保護者の方々が背を向けてるのをいいことに、Mと二人、その場に立ち上がってジャンプ！激しくじゃんけん大会参加！！それに気づいた・・？Dちゃん。ちょっと笑ってる・・？？
４時間目は３時間目のレクの感想文を書く授業。興奮冷め遣らぬままみんな一生懸命に書いている。書き終わったら、自分のお父さん・お母さんに見てもらってコメントを書いてもらう、そして先生に提出。書き終わった子が次々と席を立って自分の作文を持っていく。クラスはにぎやかで和やかムード☆
そんな中、「ハイッ！」と作文を持って一人の女の子がMの前に来た。授業中に何回も振り返ってニコニコ、休憩時間にはクラスのこと、友達のこと、自分のこと、たくさんおしゃべりしてくれた可愛い女の子H。お母さんではなく何故かMのところに（笑）Mは優しくHの感想文を読んだあと、どこかから借りた赤ペンで”すてきっ”と書き、さらに花丸を添えてあげた。Mらしい。私は、MはHのお母さんか！（笑）って笑ってツッこんだ☆Dちゃんにはバレると怖いので内緒☆（あとからすぐバレたけど！）
４時間目も終わり、給食の準備が始まった。白衣姿で一生懸命に給食を運ぶ生徒たち。班ごとに机を向かい合わせる。懐かしい感じ・・。休憩時間とはいえDちゃんは”勤務中”。またMと二人、熱い視線を送る。気づいてくれたDちゃんに、遠くから「帰るねっ」と口パクで言い手を振ってバイバイした。たった３時間？４時間？しかいなかったのに帰るのがかなり名残惜しくなっている。
「また来ようね」
「来年来たらみんな大きくなってるんだろうね」
やりたいこと全部やろう！！これが今回のMと私のテーマ。事前にばっちり計画は立てていた。学校をあとにしたあとすぐに東京に戻り、ラク−ア→ルミネtheよしもとへ！かなりのハードスケジュール。
M、疲れたよ〜、Mと一緒で楽しすぎて笑い疲れた（＞＿＜）☆かなり満喫の旅☆
また行こうね、M☆☆☆
人生初のフリー参観日、強烈に今でも心の中に残っています。これからの教員生活の中で何度、参観日があるのか・・数え切れないくらい経験すると思いますが、この日のことは絶対に忘れられません。あの日ほど緊張する参観日はもうないでしょう。
「Ｍ、これからも見守っていてね☆」
そして一言コメントを下さい・・・
ステキ＜周りに花丸＞と・・。