今飛行機の中にいます。

でも客室の椅子には座っていないのです。倉庫のようなところで袋に入れられて、袋の口は紐で縛られています。これは危険な状態ではないので安心してください。ごく普通のことなのです。もうすぐスペインに着くとスッチーの声が遠くに聞こえます。私の名前は「つつみ」です。日本から参りました。

マドリードを出て国道を南下、700キロほど走ったところに目指す場所、アンダルシア地方のラ・フロンティーラがある。潮の香りが漂い始める。なにせジブラルタル海峡の西側にあるものだから。　

丘はそびえたっているようで、村が近づくと四方に伸びる国道、県道どこからでも白い村が見える。この付近にはフロンティーラと名のつく街や村が多い。「フロンティーラ」とは国境を意味し、このあたりはアフリカからイベリア半島に上陸したアラブ軍の最前線基地であり、激戦区であったところからの命名であるとか。村の展望台からの眺めは素晴らしい。天気がよければ、アフリカ大陸の広がりまで見える。そんな街です。















着いたみたいです。私を抱えた人があるうちの前に立ち止まりました。
ピンポーン！
しばらく待ちましたがそのピソから人の出てくる気配はしません。そばにいる人に尋ねてみました。
「この住所に、この人はいませんかー」
「ああ、そういうハポネサはいたみたいだがもう引っ越したみたいだよ。なにせ元気な子でねえ、毎日忙しく学校やお出かけをしていたよ。オラ！と毎日挨拶は交わしていたんだけどねえ。」
「どこへ引っ越したか判りませんか？」
「髪の長い女はたくさんいるからねえ、ほかをあたってくれよ」
♪ジャジャッジャ　ジャジャージャン♪
「わかりました」

途方にくれたその人は、局へ私を戻しました。
私の名前は「つつみ」です。苗字は「こ」です。
こ、つつみ。こつつみ、こづつみ、そう何を隠そう私は小包なのでありました。



版画が施されているあの年賀状は、彫刻刀とか板とか墨とか葉書とかを親に送って貰って、スペインで彫って書いて送り返し、日本から親に出して貰って、返事はまとめて又スペインへ送って貰う、そんなことをしたのではないかと言う私に、シンプルに日本にいるんじゃないかと言うミュリエル。考えもしなかったことなので驚いたが、そうかもしれないとも思い始め、きっとそうだよとなり、私が代表で四国に電話をすることになりました。

「そういうわけで電話しました」
と彼女のお母さんと話していたら・・
「ちょっとお待ちください」
ときた。
「そっち切っていいよ」
などと子機に変える声がしつつ、なんと本人が出たのでありました。最初の予定通り半年で帰ってきたと、夏は暑かったと言いつつなんか上の空です。
「やったー」
テレビのサッカー中継に夢中なのでした。


『○ーたんは、元気にしているのでしょうか？今年は年賀状がこなかったので、どーしたのか少し心配しています。都合みて、食事しましょうね。○○さんも誘ってみます!(^^)!それでは。』

『スペインでのテロは、かなりの衝撃を受けました。先生や、○○さんさんは大丈夫でしょうね・・・他に、知り合いの方が巻き込まれていないといいのですが・・・』

『○○さんは今年は実家の住所から年賀状が来ていたけれど、もう武蔵野市には住んでいないの？たまたま実家でお正月を過ごしていただけなのかしら？皆さん色々と変化があるのですね！スペインに行くなんて素敵！病院も退職したってことかしら。』

『正月以降オリビアはどこにいるのかという声が大きくなりました。先生はまだスペインにいるようです。テロにあいませんようにと願うばかりです。だってアトーチャ駅近辺は私たちも歩き回った場所ですもの。』

『○○さんかえってきたんだね、なぞが解けてよかったよ。今何してんのかな？写真は携帯にはとどかないですパソがつながったらそっちに送ってね』


あの　こ、つつみ　はどこにいったのでしょうか。彼女の手元には届いていないと言ってたけれど、いったいぜんたいどこをさまよっているのでしょうか、と思っていたある朝のこと、
ピンポーン！
「郵便ポストに入らないので届けに来ました」
と郵便配達員が家までとどけてくれたものは、私が秋に出した　こ、つつみ　でした。そこにはいろんなはんこや朱書きや紙が貼り付けられて、ちょっと破れたりもしながら、戻ってきたのでした。

POR ABION Espana　Japon11月27日差出人もどし受取人あて所に尋ね当たらない（川崎港郵便局）bY　AIR MAIL 航空　PAL AVION　この郵便物は汚損したまま到着いたしました。大切な郵便物をこのような状態でお届けいたしますことを深くお詫び申し上げます。（川崎港郵便局　第二国際郵便課）と疲れてしわしわになって１０２日ぶりに戻ってきました。

ちゃんと届くかとためしに送った小包はスペインの彼女には届いていなかった。
「スペインだからね、どこかにいっちゃったんだよ」
ちゃーんと戻ってきました。１０２日かけて。

ずるずると日が経って、これを四国まで送るのにさらに１０２日かかりそうな、そんな気配がしています。