フルーティワイン‘24 
平成13年9月11日。アメリカの世界貿易センタービルが崩れ落ちる様子がテレビに映し出された。その事件で東京は浜松町に貿易センタービルがある事を思い出した。私はそこのメディカルセンターがある階でフルートのレッスンを受けていたことがある。
個人で数ヶ月。その後3人のグループレッスンになった。ひとりで店に入ることは今でも出来ないが、その時はよっぽど疲れていたのか、ひとりでも入れそうな喫茶店を探し、ココアを気付け薬として飲んでから家へ帰っていた。フルートは息が苦しい。貧血状態になる。そしてその時先生に言われた。私は腹式呼吸ではなく鎖骨呼吸をしていると。譜面を読むのも大変だ。なぜかというと五線紙の五線からはみ出る高音が多いから。発表会のようなものがあり、「小さい秋」を３人で演奏した。
グループレッスンになってからは、３人で喫茶店に入れるようになる。貿易センタービルの地下の喫茶店、銀座ライオンへも足を伸ばした。パブチューダーへも行った。ソニービルで食事もしたりした。新婚さんだった私の家へ来てもらって彼女の婚約パーティもした。横浜の彼女の家へ、３歳の子供を連れておじゃましたことも・・。その後それぞれが結婚をして年賀状だけの付き合いが続く。
去年パソコンでひとりとメールが出来ることがわかった。今年に入りもうひとりと、携帯メールとパソコンで連絡がつくようになった。パソコンをすすめたら勉強をし、購入し、急速に追いついてきた。勉強を続ける彼女は、パソコンの質問を彼にした。彼はある意味追いぬかれた、と言った。
新橋５時。２４年の月日が流れ、今日３人が集まった。
人間はそうそう変わるもんじゃないと実感した。みんな驚くほど変わっていなかった。私達の洋服の感じまで変わっていないことに驚いていた彼も、白くも薄くもなっていない頭だし（彼女が引っ張って確認済み）、昔と不思議なくらいみんなまるでおんなじだった。その間それぞれが、それぞれの問題を抱え、悩み、その中で仕事の業績として本を残し、ピアノを習いボランティアで手話をするという楽しみを見つけ、私はつい最近出来あがったエッセイのホームページのアドレスを教えた。３人にとってもすべての人にとっても２４年は重い長い年月だったのだ。私の好きな広くて暗い店で５時間語り合った。ワインボトルは２本開いた。
柴田 翔の「されど我らが日々」をすすめた彼に、なぜあの時私にその本をすすめたのかと彼女は聞いた。理由を知りたいと。
「忘れたなあ、多分意味はないと思うんだけど」
今回会うことになって又読み返したそうで是非理由をとせまっていた。私もアンブローズ・ピアスの「悪魔の辞典」を貸したか借りたかしたよね、と言ったが覚えていなかった。
グループ名を考えようとなり、「ＩＧＩ」とか「えふさんえむ」とか「とらいあんぐる」とか「extrano（不思議な）フラウティスタ軍団」とか「pene de flautistaフラウティスタ同好会」「フルーツ（フルートの複数形？）カンパニー」とか出たがまだ決まっていない。
「又２４年後に会いましょう」
と言ったら、２人とも驚いて
「生きてないよー」
「そんなにー」
などと言い、１年に１度とか半年に１度とかにしようとなって日にちも決めた。今年１１月９日が楽しみです。銀色のフルートは箱の中で黒くなり忘れられているが、私達の思い出はさびていなかったことを確認した。今度は銀座を歩きたいとか・・。温泉はないと思う。約１名男がいるしー。
彼女の言葉
ひょんなことから、２４年ぶりの再会が決まった。
私たちより一足先に再会を果たした、麒麟さんとウチの主人。
待ち合わせ場所で、すぐそばに並んで立っていながら（正確に
は、ひとり分くらいの間をおいて、二人は、ややハスに立って
いたそうな・・・）お互いにわからなかったとのこと。 これ
には、笑ってしまった！
主人曰く「麒麟さんは、自分が想像していたよりもずっと若か
ったものだから・・・」
まりあも自分のことを、メールで「多分、変わってないと思う
」と言っていたし・・・
ということは、変わったのは私だけ？？？
私はスマートだったあの頃と違い、今はすっかり中年のおばさ
んの体形になってしまった。（中年太りってやつ）
何を隠そう、あの頃よりも体重 ＋６kg、ウエスト ＋６cm。
ギョッ！
そうよね、あの頃２１歳だった私が今は４５歳。
全然変わらないなんてこと、あるわけがないじゃない！と自分
に言い聞かせてはみたものの・・・ ウ〜ン・・・
でも、私も一応はレディーよ。再会が決まってから、通販で
ダイエット薬を買い、「その日」のために、涙ぐましい努力
をしたにもかかわらず、結果はまったく効果なし！
心の中で、”サギだ！８０００円返してほしいわ！”と叫びな
がらも泣き寝入り。
そして、覚悟を決めて「恐怖の再会」に臨んだのです。
ジャジャジャジャ〜ン！！！ いよいよ再会の日。
私は、二人を見たらすぐわかるだろうなって自信があった。
最初に姿を現したのは、麒麟さん。
相変わらず、背が高くてスマートで、キリンのよう・・・
昔と変わらぬ、少年のような澄んだ瞳・・・
少し遅れて、まりあが到着。
箒に乗ってやってくるのかと思って空ばかり見ていたら、何と
歩いて来たのでビックリ！でも、改札口から出てこなかった
ところをみると、どこか近くで箒を降りたのね、きっと・・・
まりあも昔とちっとも変わってない。相変わらず、スマート
だこと。まあ、まりあの場合は魔女だから・・・と納得。
わぁ〜、なつかしい！
会うまでのドキドキは、二人が全然変わっていなかったことで
安心し、いつしかなくなっていた。
まりあが予約しておいてくれた「だいだいや」は、薄暗くて大
いに気に入った！これからも、会う時は２０ワット以下の明る
さがいいな。いや、豆電球くらいがいいか・・・？
麒麟さんたら、美女二人”両手に花”だったものだから、嬉し
くって、思わず箸置きを飛ばしちゃったのよネ。
おかしかった・・・！
鶏肉が苦手な私は、鴨肉の料理を帆立に変えてもらい、まりあ
は、はまちをかつおに変えてもらい、満足満足・・・
お店の人には、私たち、わがままなお客さんだったかもね。
ワインも、とっても美味しかった！
夢のように楽しい時間が流れ、その夜、私はいつまでも神経が
高ぶっていて、ついに一睡もできなかった。最近、更年期なの
か眠れぬ夜がよくある。
そんな時、「眠れないよ〜」って二人にメールを送り、私が眠
れずにいることを知らせるだけで気持ちが楽になるのが不思議。
そして、少しまどろんで夜が明ける。
でも、あの日はそんなものではなく、本当に一睡もできなかっ
た。
みんなフルートをやめてから、何年も経つというのに、今回の
再会にあたっては「縁」というものをとっても強く感じた。不
思議な集まりだったね。せっかく「出会い」があっても、「縁」
がなければそれっきりだもの・・・
それにしても本当に不思議。何年も会っていなかったというの
に、全然そんな気がしなかったのだから・・・なぜ？？？
魔女が魔法を使ったのかもネ。
不思議なことがいっぱいの私たち・・・
次回会う時には、まりあのスペイン旅行の写真を見せてもらう
約束になっているので、またまた楽しみ。早く１１月にな〜れ！
彼の言葉 私から見たあの日
二十歳すぎの学生のころ、ゼミの友人が話題のなかでよく使っていた“古き良き時
代”。経営学を学ぶものとして、数十年にわたる企業経営の変遷のなかから経営の何
たるかを学ぶには、若くして老成することが必要だといわれていた。それにしても二
十歳そこそこでこの言葉を多用するのは、やや老成し過ぎだ！とも感じていたが、い
つしかこの言葉がしっくりする年齢になっている。
軽い気持ちから発せられた「再会してみようか」という言葉がにわかに現実のもの
となった。しがらみの中で半世紀を生きてくると、どこかに昔を懐かしむというか、
人恋しさが芽生えてくるのだろうか。最近になってメールで交信を始めたものの、フ
ルートが縁で出会ってから24年の歳月の間に、それぞれはどんな人生を歩み、どれく
らい変身しているのだろうか。会ってみて確かめてみたいような、それでいて少し不
安の入り交じった気持ちでの再会であった。
再会してみると24年前のイメージをそのまま持ち越していて、服装まで当時のイ
メージを彷彿させられたのにはいささか驚きでもあった。それぞれ齢を重ねても、
互いの相対年齢は変らないせいでもあるのだろう。
再会は、裃（かみしも）脱いで、利害関係抜きでつきあえる心地よい時間だった。
それは純粋で、そして一生懸命に行動していた学生時代と一脈通じるものがあったの
だろう。社会人になってから出会った仲間なのに、なぜか話をしているうちに学生時
代のことが鮮明に思い出されていたのである。
ふり返ってみると、フルートを習い始めたあの頃も、また古き良き時代であった。
人が誰しも持っている古き良き時代。これから10年たっても、また“古き良き時
代”を振り返れるように、思い出をつくりながら齢を重ねていこう。（2002.5.28）
『2002シャーマン』へ
『2003ペルピニアン』「ムーンアイランド」へ
今回２人にも文を書いてもらおうと思い立った私はさっそくメールでお願い文を出した。出したその日に彼女から、仕事で忙しい彼からは10日後に文が送られて来た。いいアイディアだと思ったけれど、これって今流行りの「冷静と情熱のあいだ」トライアングルバージョンってこと？ ステキ！