オレ・オーレィ（・・もどき）
「３６周年記念のお礼の品を届けたい」
「アンケートとかあるんでしょう。時間もないし結構です」
通販から電話が来た。いつものように軽く断る。
今回は前回と違って本当だと思ったと言う。仕事場の同僚が二度目の大金を振り込んでしまったそうだ。私は薬剤師でもないし、医者の奥様でもないからねらわれないし、電話が来ても絶対引っかからない！！！自信がある。
仕事場の先生が新聞の勧誘で商品券をもらうところを見た。しかも一万円だ。さらに洗剤なども頂いて３ヶ月契約をしていた。結局新聞代３ヶ月がただになる計算だ。ずうっとそれできているらしい。なんか私にもいいことあってもいいよなあという気持ちがあったのかもしれない。時間もないけど仕事に出掛ける前に来ると決まってしまった。お得意さまではないけれど通販のお礼の品ってなんだろう、なんてね。
「銀座花のれん」のせんべいだった。
そしてパークレーンで開催されるバーゲンへの招待ときた。農家出身で趣味は野球と映画を見ることというプロフィールを見せられる。好きな食べ物「カキフライ」（あっ私とおんなじだ）。
バーゲンは興味ない。時間もないしプチ引きこもりの私は出掛けない。それに私はまんじゅう派だ。ここらで断固断りの姿勢に入ろう。
すると持ってきた風呂敷の中から帯〆がずらっと並んだ箱を取り出した。その中で欲しいものはどれかなどと言う。家にはたくさんあるからいらない。使ってない帯締めだってある。ただでくれるのかな。どうしても選べと言うならまあこれかなと地味な水色を選んでみる。
するとなんと１，０００円でお譲りするから当日取りに来てということらしいことが判明する。いくら１８，０００円の品とはいえありえない。お金は今頂き、品物は当日渡す。とんでもない。いらない。薬局でのオレオレも頭をかすめる。今までのすべてをチャラにしたいと思い、竹墨のフリーカップ３客組のおみやげ券と頂いたせんべいも押し戻す。こんなもんに引っかかるまりあさんじゃあありませぬ。年寄りじゃないんだからあ。
３日間の中で日を選べと言う。
どうしてもというなら仕事がない金曜日かなあ。でもきっと行かない、という私に駅まで迎えに来てくれると言う。家までじゃなきゃ、とか言いながらも断りの姿勢をくずさない私に、帯〆ではなびかないと見たか今度はショールを出してきた。３８，０００円する品だが３，０００円でお譲りすると言いながら。そしてその金を今預かりたいと言う。それでもだめ。チャラはチャラ・・と思う。
でもフリンジﾞもしっかりしてるし、なかなかいい品物ねともう一度手に取る。シルクで３，０００円って結構お買い得かも。「このまま売ってくれるとか？」「それは・・・」あくまでえさということね。
ショールは家にたくさんある。披露宴に使うようなものが何枚でもある。それでも少し前にオーガンディに刺繍がしてありスパンコールがついているものも買いそうになってがまんして帰って来たことなどが思い出される。アレはステキだったな。でもたとえば病院の待合室で肌寒い時、エトロの大きいショールをしている人をいいなと思いながら、エトロの７万８万には手が出ないし、オーガンディなんてたとえその時持っていたとしても寒さ除けには大して役にも立たないしそんな時にそんな場所で使っている事の方がむしろ恥ずかしい。だから使わない。よっていらない。
でもお、そのショールはちょっとステキ！寒さ除けにもなりそう。なにしろ３８，０００円する品でしょう。それがたった３，０００円で？うふ。再度３日間の中で日を選べと言う。その日までに用意しておくと言う。カレンダーを見に部屋に戻り、ついでにバッグの財布を見た。千円札の新券が丁度３枚見えた。新券を渡したら今年から勤め始めたという新人さん大喜びです。最後にもう１回握手をと言われ２回も握手をして帰って行った。あれ？？？
実ははじめてのお客様だと言われた。夫に言ったら、「まんまとひっかかったね」と言われた。今度の金曜日、一駅電車に乗って１０分歩いてパークレーンへあのショール取りにいかなくっちゃ。その際余計なものを買わないようにしようと思う・・。これってオレオレじゃないよね？「銀座花のれん」のせんべいをかじりながら考える。
さて当日、会場に到着しました。外出するのは憂鬱という気持ちが反映してか、２時頃という約束が６時になりました。だって大体の時間って言ったし、久しぶりの遠出なので駅ビルで用事を済ませたり、銀行に寄ったりしたので・・しょうがないじゃない。
現場は京都の茶屋風のセットが出来上がっています。お茶菓子つきでアイスコーヒーが出て着物姿の女の子がわざとらしい愛想をふりまいて接待してくれます。年寄りのカモが来たと思われているんだろうなと察します。それならそれで老婆心ながらこんな仕事してちゃいけないよとも言いたいです。着物販売詐欺の様相を呈しています。ショールだけもらって帰りたいけれどきっとそれは通用しないのでしょう、心を決めて暖簾をくぐります。私の靴がしまわれました。逃げられない？
着物の先生を紹介される。そして作家ものの着物の値段当てに付きあわされ桁違いに笑って一枚目クリアー。実は私は５年前位にこれとはちょっと違う手法でしたが着物を買いローンが終わったばかりです。絶対引っかからない、というか家計を考えてもひっかかる訳にはいかないのです。
何枚かの着物には興味なさげに通り過ぎ、帯のコーナーで待機しているおじさんの前に連れて行かれる。べっこうをうすくして帯に織り込む手法に感心し、膝をついて話しこんでいる様子をみせながらも座布団には座らない。はけどきをねらいながら質問もする。それに答えて満足したのか他も見ていって下さいと開放される。帯コーナークリアー。
今度はバッグ攻撃だ。おばさんが座っている。牛の首のところの皮だと言われて触ってみろと言われても、そりゃ柔らかいけどそれがどうしたという感じ。これならというデザインを手にして値段を聞いてあきれる。いくらアフターサービスがあると言っても願い下げだ。「僕はこのデザインがいいと思うんですが・・」「私はだめ」と私らしくなく冷たく言い放ってみる。そして最後の宝石コーナーへ入っていく。これをクリアーすれば良い訳だが・・・。
本物のプラチナや金の輝きには何にも負けないものを感じる。やっぱり本物はいいなと思う。デザインもいいし、重厚感もある。そして真珠のネックレスの美しさ。ケースをどんどん開けてゆく。てり、まき、大きさ、値段も考えたらこれかなというものに行き着く。
「どれが気に入りましたか？」
「27万円のこの真珠かな。これをいただきましょう！！！」
靴を出してきてくれてその部屋を出る。お土産をいただき、あのショールをもらって帰途についた。竹墨のフリーカップ３客組はとりあえず食器戸棚の上にほおりなげた。ショールはとても気に入り、さっそくタンス『2005ｍａｓｈａ』「デカダンス」にしまいこまれました。
真珠は冗談だって思われたみたい。本気だったのにぃぃ・・・・・！？
