ギフトカード（新聞）
 

チャイムが鳴り電話で応対する。
ぼおっとしていた夕方、黒服のお兄さんが来た。

「ずうっととっていますよ」
「ありがとうございます。今日はお礼に来ました」
「そこに決めてますからお礼はいらないです」
今日の私はいつにもまして、いや、いつになく、ぼろい。髪はゴムでひとつにしばり、寝巻きとしている夏物のドレスの上になんとTシャツを着ている。ようするに変な格好だ。めんどくさいなあと思いドアをあける。

「商品券を１０枚差し上げます」
「お礼で商品券はないでしょう」
「じゃぶっちゃけます」
めんどうな話の展開にいらついた私にＹ新聞を退社し、Ａ新聞に入ったと明かす。

「お願いしますよ、３ヶ月でいいんです」
きました、常套句。ウチは決めていますから変えませんからと断る。それで今までこういう勧誘を乗り切ってきたのですから。そして成功してきたのですから。変な格好をいつまでも見られているのにも耐えられない。



「商品券を20枚差し上げます」
オオッと！！そこで思い出した。つい最近の出来事だ。

＜仕事場の先生が新聞の勧誘で商品券をもらうところを見た。しかも一万円だ。さらに洗剤なども頂いて３ヶ月契約をしていた。結局新聞代３ヶ月がただになる計算だ。ずうっとそれできているらしい。なんか私にもいいことあってもいいよなあという気持ちがあったのかもしれない。時間もないけど仕事に出掛ける前に来ると決まってしまった。お得意さまではないけれど通販のお礼の品ってなんだろう、なんてね。＞『２００５ツァオベライ』「オレ・オーレィ」（・・もどき）

「近所でそういう話は聞いていたけど私は初めてだ」
「じゃもっと少ない枚数から始めればよかったかな」

「そうでしょ、じゃチャラにしてもいいですよ」
「そんなこといわないで20枚で」

「会社が変わって初めてのお客さんになる」
黒服はしくじったという様子も浮かべたが契約は欲しいらしい。私も結婚以来新聞を替えたことがなかったので迷ったが、つい先日うらやましがっていたことが降ってきたわけだから一度受けてみようと思った。お礼を言われあとで会社の方から確認の電話が入りますのでよろしくと言い黒服は帰って行った。

初めてのお客さんと言われたあの時「オレ・オーレィ」とおんなじだと複雑な気持ちの私は、それでも早くドアを閉めて黒服の視界から消えたいと思い、印鑑を押しドアを閉めた。そして500円のＶＩＳＡギフトカードを20枚まで数えた。



「あとで何か持って行くといいませんでしたか」
「何か持って行く？・・言いませんでした」
勧誘員とは別の人が、住所や契約期間などを確認したあとそう言った。
新聞業界にはまだまだ未知の奥深いものがあるようだ。

来年の夏から新聞が変わります。