トットコハムタロー
一周忌が近づいた頃、座布団を買い足すより新しいカーペットを買おうと思った。
２帖用か、３帖用か、６帖用か、江戸間サイズ、団地サイズ、居間にどのように置くか考えがまとまらない。それにかこつけて一年分泣いた。サイズを測ればいいと言う、テレビで映画に見入っているパパにも手伝ってもらいたい。初めてそんな泣き方をしている私に驚きながらも、映画を途中でやめると解らなくなるからとか言う。そんなパパがやっと測り始める。それでもひとりでは測れなくてメジャーをおさえろとか言う。一メートルのところをこう押さえればひとりでもできるでしょうに・・・（シュルシュル、バチーン）。そんなつもりじゃないのにー。もうやだ。
丁度その時おねえちゃんから電話が入る。「パパに代わって」「パパは又テレビに見入っているから」と断ったが「代わってみて」と言われ、ママに協力してあげてとか言われたのだろう。とんだとばっちり、ママからの八つ当たりを受けたパパは耐える。やっと決めて電話をしたら通販では時間がないと言われる。近くのスーパーで手配しようと気持ちは落ち着いた。何度もハナをかみながら思い切り泣いたらすっきりした気がする。
「若くして天に召されるのには理由があるそうです。神さまが、人の命がいかに大切かということを、人々に知らしめる為に、お側に・・・。ということらしいです。」(キノピーよりのメール）
二年目が始まった。
１１日 自宅で行われ３８人もの人が集まってくれた盛大なお誕生日パーティの翌日、高校時代のお友達２人がりっぱな果物かごを持ってきてくれた。ＭはKの勤め先である化粧品会社の入っているデパートへ来てくれたと話す。メーカーが変わったので又近く訪ねてくれると約束していたと言う。
仕事場のチェックをする。そういえば美容院の受付をしている子もチェックしに（？）行っていた、あの子はチェックマンだなどと話す。ママは風邪をひき仕事を１時間早引きして寝ていた.。お友達が訪ねてきたとパパに起こされたその日は、せきがひどく声も出ないので話すのが大変だった。元気になったから又来てね。そこへ電話が入った。一周忌にも参加できないAの気持ちを説明しにＡママが来た。興奮しているＡママの話を聞いているお友達は少し驚いている。
「Eちゃん、お借りします」
Aママをお姉ちゃんが説得する。そして私が台所に立っている間にEからAに話して欲しいと話がまとまったらしく、おねえがA宅に連れて行かれた。昨日Mがいただいたたくさんの花束の中から、アレンジの花かごをAに渡してもらおうと持っていってもらった。この赤い花の役目は大きい。おねえは、ぼろ泣きのAの話を聞き、気持ちを治めて一時間後に帰ってきた。
翌日、Ａママから「どういう気持ちで行けないのかＥに分かってもらえた」と言ったＡのことを聞いてきた。Ａママはあれからずっと１年苦労をしている。Ａママ本人の気持ちも含めてそれは今も続いている。考えこまないように話さないようにして気持ちをぼやかして耐えている私と対照的だ。
１３日 「国立へ帰りたい」
Ｍがこちらに転校して来た直後、かなり長い間しょっちゅう言っていた言葉だそう。家族は今始めて知った。それを聞いたEちゃんはその頃さびしさも覚えたと言う。まだ友達がいなかったＭを自宅でやる餅つきに招待してくれたEちゃん、それ以来あだ名はもちっこEだ。そんなもちっこEが1年ぶりにひとりで来てくれた。そのもちっこが中学時代に週３回位は家に来て遊んでいたと打ち明ける。棚のウイスキーを少し飲んだりしたとも言う。Aと同じ気持ちで
「家にMがいないことが信じられなくて来ることができなかった」
とピザを食べながら言う。暑中見舞いとしてみんなに配ったＭカードにパソコンのアドレスがあったが、気持ちの問題でM-channeｌを見ることが出来なくていた。５月のお誕生日に見てみようと決めてアドレスを入れたがアクセスできなかったという。チャンネルを整理して途中でアドレスを変えてしまった私のミスだ。みんなに送り直す訳にも行かず困っている。
夜、中学生の頃の写真を見て「かわいそうに・・・」とつぶやく。「でもそれであの高校へ行けたわけだから」と言うお姉ちゃんの言葉でコロッと気持ちが変わる。「そうね、転校は良かったのよね」その頃からお友達に対しての執着心というか、大事にしようとか、輪をひろめようとかそんな気持ちが強くなったのかもしれないとも思う。でもあの時期の転校はやっぱりかわいそうだった。
１５日 お誕生日パーティから数日経ち、初めての日曜日。夜９時。自宅には横浜からのお友達が訪ねてくれている。まとまりかけているカップルだ。彼は、Ｍと「親友」であり真の友達「真友」だとも言う。彼女はバーベキューに誘ってくれて彼と出会わせてくれたＭに感謝していると言った。いい天気だったが午後から一転、雨が降り出し、雷が鳴り、雹が降ったところもあり、又お天気になる。そんな1日でくるくる変わる日もそうそうない。そんな今日、茨城の墓ではＭ関係のグループが３組鉢合わせたそうだ。前代未聞だ。
２０日 夕寝をしていたら、ふらっとＣが来た。その眠さはおかしいんじゃないかとパパは言う。でも朝方まで起きている訳だからこの時間帯に眠気がくることを知っている私は平気だ。栄養失調からの昏睡ではない。ぼさぼさの私を見て「今日は帰ります」と言ったＣはプリン類を家族分プラス自分の分持ってきてくれた。写真を見て今度来てくれる予定の園児を教えてくれる。ここまでの言いたい事、聞きたい事をＣが片付けてくれる。パソコンの中のデジカメ写真を見たり、新しいエッセイでの質問なども受けＣが知りたいことも教える。帰ったあとみかんゼリー“きらり”が仏壇に置いてあるのを見た。
２２日 『園児用にと箱から出して用意していたトットコハムタローのグラスに麦茶を注ぐ』『Mチャンネル』「ハッピイバースデイ２４＋１」。このグラスもそうだが、紅茶ティーサーバー２人用、４人用、タッパーいろいろ、クリスタルの時計、Ｍの嫁入り道具のつもりで貯めていたものを出し、箱をつぶす。
日曜、朝１０時。保育園のお母様たちが３組来てくれる。Ｍの好物「タマゴサンド」を用意しようと思う。そして子ども達にトットコハムタローのコップを使い今日はオレンジジュースを注いだ。先日Ｕ先生に頂いたすいかも食べやすく切って出してあげた。男の子３人は迫力がある騒ぎだった。色んなものを取り合う様子やけんかになりそうな場面とか元気に外に飛び出して行ったりと・・・Mはこれを楽しんで見守っていたのだろう。
デジカメ写真を撮って「あとで○○っか先生に見せてあげなきゃ」と言ったら「えっ生きてんの」と驚かれ、「さあどうかな」などと言ってしまい「こうやって見せるの」と仏壇にカメラを差し出し・・「なんでしんだの」と聞かれ「え、そ、それは・・」子どもの率直で急な質問にたじろぐ。３人のお母様方はそれぞれMの話をしてくれて泣いていた。パソコンで＜保育園風景＞＜友人達との遊び＞＜小さい頃のアルバム＞などを見ている時も泣いていた。
園児たちが帰ったあと、お母様たちが書いてくれた、Mの言葉がちりばめられたノートの文を見て今度は私が泣いた。お手紙も送ってくれるとうれしい言葉ももらった。夜になり雨が降り出した。
『４月になりました。こういう風に時間は過ぎていくのですね。これからも・・ずっと。桜は記録的な遅咲きだそうでまだ咲いていません。Ｍはどこにいるんだろうねえ。明日ばあばからおまんじゅうが届くよ。食べにおいでってば。0401』
『今日はＮａグループが来た。おとといはＳとＹッキーとＣがきた。今日ヤフーで引き出物のブックマーカーを50個落札したよ。38.8度の熱が出て2日会社を休んだおねえが手伝ってくれたよ。ママが書き上げた童話「魔女Ｊの軌跡」をみんなに配るということは、おねえの涙の説得で却下されてしまいました。そうだ。書き直そう。ドイツへ留学する魔女ジル様ということにしよう！！どう？？0412』
『書き直したらオッケーが出た。「魔女Ｊの軌跡Ⅱ」まるで変わった。問題ない。でも配る事はないと言う。でも配る。１１回目のお墓参りをしてきたよ。お天気がよくて、車の中からきれいな雲を見ながらＭのことを考えていたら涙が出てきた。パパはその時、コーヒーブレイクを提案した。誰かが落ちると誰かが助ける。そうして一年がたった。長い時間だったよ。一周忌のためにブックマーカーと和三盆を用意しました。』
『５月になりました。なってしまいました。みんなそれぞれの考えの元に行動するのです。Ｍのために色んなことを考えているお友達。新たな悲しみも味わっていることでしょう。ママも昨日ぶちきれてがんがん泣いた。とんだとばっちりを受けたパパにごめんなさいです。一年分泣いちゃった。パパを驚かせちゃった。そのあと○○に会いに行ったけどいなかったね。ほんとに魔女ジル様になってパソコンの中にいるのかな。どうしているのか教えてくれたらママがお友達に伝える役目をしよう。芍薬の花と百合の花を買った。明日あの胡蝶蘭も買おう。0502』
『5月6日 二度目の夢に出てきました。パパが夜中にオーイと私を呼びました。行ってみると居間にＭが笑って立っているではありませんか。私は声も出せずに抱きしめました。しっかりと抱きしめられました。本人笑っています。「帰って来ちゃった、帰って来られるんだよ」などと言います。「ずっといてもいいの？」「うん」とも言います。Ａ美を呼んで驚かせてやろう。その前におねえちゃんだ。お姉ちゃんを起こすと涙ボロボロで名前を呼び抱きついています。「Ｅっちゃん、ごめんね」と言いながら笑っています。このことをさあどこまで言おうか。全員に言おうか。そうだ。歌手としてデヴューさせてテレビで見せることにしよう。名前はやっぱりＭかなあ。「こいつＭに似てるよなあ」「私もそう思うんだ」そんなお友達の様子が浮びました。でもウチに帰ってきたらばれるから都内のマンションに一人暮らしさせて・・。メールで沢山話そう。そんなことを考えてました。明日は一周忌の法事のため茨城へ向う、そんな日です。0506』
『一周忌、お誕生日が終わりました。お友達がたくさん来てくれてすごかったね。一年前の通夜、葬式が結婚式だったらよかったね。ママは気楽で幸せなおばあさんになれたのにね。しかめっつらで笑い変なことを言う暗いやせたおばさんになっちゃったよ。』
「魔女Ｊの軌跡」（ジル様のおはなし）に呼応する、「シーダーリポート」、「ジジリポート」ふたつのレポートを書き始めました。Ｈ17・5月
Ｃ-Report（日本のヒマラヤ杉、東京の話）
Z-Report（ドイツ黒猫のジル様修行レポート）
目が覚めたとき「ここはどこ私はだれ」状態になった時期があった。マミは今どこにいるのか、パパは？Ｅは？口には出さずに考えるチエがつく。部屋を割り当てるとマミがいないことがわかる。Ｍは？となったときはあぶない。
一年頑張ったママが医者へ行った。Mもゼンソクでお世話になっていたドクターに打ち明けた。風邪が治ったら検査をしましょうということになった。
６月の子守唄
♪星がひとつ空から落ちてきた
六月の子守唄をうたう 母のもとへ
さわるとすぐにこわれそう
ガラスのようなおまえだから
風がわるさせぬように
悪魔がさらって行かぬよう
そしておまえが
目をさましたならば
一番はじめに私が見えるよう
母はこうしていつまでも いつまでも
おまえのそばにいてあげるから
大きくおなり優しくおなり
母はこうしていつまでも
おまえのそばにいてあげよう
私の愛を忘れずに
星がひとつ空から落ちてきた
六月の子守唄をうたう母のもとへ♪