BON(花火）

19：20のカウントダウンから20：30打ち揚げ終了まで総数5,000発が打ち上げられるそうだ。

昭和記念公園の花火へはここ数年お友達と行っていた。
「明日着るから出しておいて」又は
「浴衣どこだっけ、これから行くから」
「早く、早くぅ」
と笑顔で言われちゃ私は押入れに頭をつっこむしかない。打ち上げ花火は元来、精霊送りの行事であったとされています。二回目のＢＯＮがめぐってきた。

盆は、ほうろく、おがら、なわ、供え物、馬と牛をかたどったつくりものなどをそろえる、から始まる。今年は早めに呼んであげようと思い、妹とふたりで玄関先での迎え火をした。空を見ながら「おかえり」と言いながらほうろくを家に向かって飛び越えた。その日、仕事を終えたお友達が３人来てくれた。その日は折り紙大会になっていた。

その後の数日はママとＭだけで静かに過ごした。たいしたごちそうも作れなかったが、マグロの刺身もあったし、ばあばからおまんじゅうも届いたし、おねえは毎日飲み物をくれるしお菓子も買ってきてくれる。Y子おばちゃんはミーシャのCDをくれたし、A香はゼリーをくれたし、お友達からのお花もある。夜にはベランダでろうそくの火も点けたし、仏壇の上にはヒコーキやハトや言葉が書いてあるツルや風船うさぎの折り紙があるし、去年保母さんたちから頂いたピンクのワンピースも飾ったし、玄関の下駄箱の上にはダイヤがこぼれそうな白いサンダルも置いた。
パパとふたりで空を見上げて「またおいで」と言った。はじめてみる送り火の作法をパパは頑張った。これで又Ｍとしばらく離れることになるわけか。

昭和記念公園の花火に興味はないと思っていた長女が、高校生の時以来の浴衣姿で出掛けていった。
その日Ｍにプレゼントを持って二人の訪問者があった。後日母と電話した時に報告した。
「それは本当にうれしいこと・・・だけど・・・」
と言ってから
「Ｍちゃんがいなくちゃね」
と続いた。

ドーンドン！音に誘われマンションの非常階段の５階まで登る。ビールを冷蔵庫から出してきてリップルを開けていない今と思い夫を誘う。５分ほど付き合ってくれた。初登場！スターマイン、打ち揚げ幅300mの超ワイドスターマイン、一尺五寸玉、芸協玉、一尺玉「匠の華」、そしてクライマックス･･･。あやうく泣きそうになった熱海の花火『２０００ソルシエール』「ロイヤルマザー」を思い出し最後を見たいと思った。

夫はビールと夕食を済ませパソコンに向かっている。碁も終盤らしく画面には碁石がたくさん並んでいる。19：20から始まった花火大会はたしか20：30に終わるはず。それを見たいと思った私はもう１回非常階段へ行こうと誘った。一人ではこわい理由もある。「もういい」と言った夫だったが途中で投了してくれた。私は急いでデジカメを持ち、眼鏡を持ち、サンダルを履き、鍵を閉め、夫のあとから非常階段を登る。

「芯入り牡丹」、色が変化する「変化牡丹」、そして「蜂」。これは上空でブーンブーンとうなりを上げながら、火の粉が不規則な奇跡を描いて飛び回る花火のこと。そして打ち上げ花火の玉を何十発、何百発と連続して咲かせるスターマイン、さっきのきれいな花火たちを思い浮かべる。今それらが夢のように消え、暗い空があるばかりだ。しばらく待ってみたがどうやらクライマックスを見逃したようだった。

保母さんふたりが、そしてひとりが、そして母校の同窓会があり東京に集まったという４人が来てくれて、そして８月の盆がきた。お友達と花火大会をしようと思って用意していた花火はまだ仏壇の前にあった。

市役所のロータリーの横にあるその場所はなんと花火にうってつけの場所なのだろう。
駐車場であるが数年前入口にゲートが出来、料金を取る仕組みに変わった。バーで仕切られたせいでその中にはこの時間帯、車は一台もない。高い木もあり植木は刈り込まれきれいに整備してある。夜９時半という時間も丁度よい。夏休みということで少しくらい騒いでも、煙がたくさん出ても大丈夫そうだし全然気にならない。この広いスペースにひとっこひとりいない。水が入ったものと花火やろうそくやライターなどを入れたバケツをふたつ持ってエレベーターを降りた。

「暑中お見舞い申し上げます。今月は8月13日、14日に茨城に行きます。今度来る時は花火大会をしてＭと遊びましょう！」
その日が来てお友達が５人集まった。おねえちゃんも参加してエレベーターを降りた。去年から仏壇の前にあった花火、今年買い足した花火、今日Ｍｏが持ってきてくれた花火、それらが大量の煙と共に一瞬の光を放ち消えてゆく。花火でハートを書いたり字を書いたりした。

ちゃんと順番を考えていたようで、線香花火を取り除いて残していた。その線香花火にいっせいに火をつけ一番早く消えた人がバツゲームをするというルールも考え付く。若い子はいろんな事を楽しむものだと感心する。おとなしいと思っていた男の子も松井や川相のバッティングフォームなどをちゃんとやっている。エライ。Ｎｏも踊りを踊る、「ひろしです」をするなどちゃんとこなした。わたしはバツゲームがこわくてびくびくしながら１回だけ参加した。セーフだった。

「今日来なかった子が今度時間を作って墓に行くと言っていた」と教えてくれた言葉に胸が詰まる。
お友達が帰ってから夜遅く、いつものようにパソコンにデジカメ写真を取り込んだ。そこには暗いばかりの写真が並んでいた。新しいデジカメを買ってしまおうと密かに決心する。今日は楽しかったはずなのにおねえちゃんが少し暗くなっている。ママも花束のセロファンをはずし、なんと大きな花束になった花瓶を見て、夜世界陸上を見ながらも、少し気持ちが落ちこんだ。

ワンピースを洗ってしまい、サンダルも箱にしまい、青いちょうちんもしまい、盆は終わった。
駐車場に花火で書いた字は夜中に降った雨でも消えずに残っていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜みんな友達＞
　　　　　　　　　　　　　　　　