Ｍパレス（地震）

夫とふたりの時、私は助手席に座る事になる。すると夫が私に言う。
「パッセンジャー」「あっ、はい」
シートベルトをしないとそのサインが出る。
「パッセンジャー」「ああ」
「おいおいパッセンジャー」「・・・」

そこには長女が座り、その後には私、運転席の夫の後ろには次女、というのが定位置だった。それで伊豆にも軽井沢にも横浜にも千葉にも茨城にも行った。いつも私は助手席に座ることはなかった。そんな私は今回「パッセンジャー」という称号を頂きました。


東京２３区内で震度５弱以上を観測したのは９２年２月以来という強い地震があった。

足立区で震度５強、２３日午後４時３５分ごろのことだった。その時、河相我門はラーメンを作っていた。タモリはラーメンを食べていた。それぞれ違う場所でー。休憩室から調理場へ向かう途中だったという子(S)。本屋で立ち読み中だったという子(U)。タクシーに乗っていたという（Y）。揺れてる電線を見て風かなっと思った人(M)。ある薬剤師(T)は親戚の子を膝でピョンピョンさせていたので揺れは感じなかったと。私と夫(H＆T)はというとその時墓からの帰り、まさに震源地真上の高速道路を走っていた。

その時ハンドルを取られたと言ったT＆H（夫と私）は往路で、草取り草刈り兼用鎌を買った。高速を降りた所の「ジャスコ」にはなく、数件先の「ジョイフル山新」にあると教えてもらい芝生の刈込鋏も買った。そして雑草を刈った。
夫は軍手をして鎌を使い、手を傷つけないように注意して。私は刈込鋏で、隣の空いている２区画の雑草を刈った。この夫婦にできることは今こういうことしかないのだということに気付き、この久しぶりの肉体労働を、園芸に毎月通う人のようだと思い込んでみようかとも考えて、「ここにきゅうりやピーマンを植えてしまおう」などと言ってみたりしながらせっせと雑草を刈った。東京都２３区推奨ゴミ袋が満タンになった。

墓の隣のスペースにテントを立ててキャンプをしたいと盛り上がったお友達もいた。そんなこともあるそのスペースを買い取りたいと長女も言う。今日は下準備ではないがその場所の雑草取りをした。
猫と遊びながら、隣の墓の囲いに腰掛けてガラス瓶の中をのぞいている、道から墓を見つめている背中ごしの風景、夫のそれらはとても悲しいショットだった。Ｍのことについて何も話さないでいる夫の気持ちをデジカメ写真が語っていた。つい先日まで寒い寒いと震えていたのに今日は暑い日ざしを受けて汗をかきながら作業をしている。一年が目に見えるようにどんどん過ぎる。

茨城の家に寄った。その時夫が墓の隣のスペースの話を義弟にしてくれた。義弟は調べてくれると言った。でも住民票の筆頭者とか名義とか住所変更とか墓を立てる予定のない人の登録は難しいだろうなと言っていた。もう予約済みかもしれないしとも、翌日一人で行ったおねえちゃんを駅まで送ってくれた義弟は言う。

自宅へ戻って５日目、２８日の午後７時１５分ごろ又来た。茨城県南部を震源とする地震があり震度４を観測した。気象庁によると、震源の深さは約５０キロ、マグニチュードは５・１と推定される。
Mが暴れている？何か言いたいのかなあ・・・。



自宅の障子貼りをし、実家の庭の草むしりをした盆休みのこと、お友達が「観てください」と置いていったＤＶＤを観た。その話は、雨の季節だけ、6週間だけ、戻ってくるというもの『Ｍーｃｈａｎｎｅｌ』「ハーフイヤー」（来客）。誰が誰と配役を決める事は出来ない。誰も当てはまらない。ただＭ、Ｍ、Ｍ、Ｍと何度も呼ぶ声を聞くたび嬉しいような悲しいような思いがした。記憶を失っていてもいいから・・6週間だけでもいいから・・あの笑顔にもう一度会いたいものだ。

「名前のない星を見つけて君の名をつけたい　愛しさとともに」
茨城の墓の手前に出来たセレモニーホールが名前を募集していると知った。それぞれに美しい人生を送った人々とお別れの儀式、宮殿での最後の宴。その場所の名前として、一年前から隣の霊園のメンバーに加わりました娘の名前をつけたいと思いました。考え付いた名前は「パレスＭ」又は「Ｍパレス」。
「Ｍパレス」から 「ヘブンズゲート」天国への門をくぐり 「ブルーローズガーデン」この世にはない花、青いバラが咲き乱れる場所へゆく。
「子供が生まれたらＭって名前をつけるって言うお友達がいるのよ」
「みんなつけますよ。だれだれんとこのＭちゃん、うちのＭちゃん、おたくのＭちゃんって友達の子どもは全部Ｍですよ」
お墓参りの友達がタクシーに行き先を告げる。「Ｍパレスへ・・」



＜♪もしも晴れたら君と手をつなごう　風が吹いたらそっと肩を寄せて
もしも雨が降ったら君と傘を差そう　降り注いでくる小さな花たちを見つけて
名前のない空を見上げて　君と何処までも歩いていきたい
もしも明日に迷った時は君の名を呼びたい
ｙｅｓ、Ｉ　always ｃａｌｌ　ｙｏｕｒ　ｎａｍｅ，ｙｏｕｒ　ｂｅａｕｔｉｆｕｌ　ｎａｍｅ.

もしも夜空に星が輝いたら　誰より先に君を思い出すよ
もしも願いが一つ光届くのなら　何より先に幸せを君へと祈るだろう
名前のない星を見つけて　君の名をつけたい　愛しさとともに
まぶた閉じて眠るときまで　君の名を呼びたい　
ｙｅｓ、Ｉ　always ｃａｌｌ　ｙｏｕｒ　ｎａｍｅ，ｙｏｕｒ　ｂｅａｕｔｉｆｕｌ　ｎａｍｅ.

名前のない夢を見つけて　君の名についた　愛しさとともに
まぶた閉じて眠るときまで　君の名を呼びたい　
ｙｅｓ、Ｉ　always ｃａｌｌ　ｙｏｕｒ　ｎａｍｅ，ｙｏｕｒ　ｂｅａｕｔｉｆｕｌ　ｎａｍｅ.＞

　　　　　　　　　　　　ー名前のない空を見上げてーｂｙ　ｍｉｓｉａ


翌月のこと。７月の盆にも８月の盆にも来てくれたお友達が今日は茨城に行くと言う。朝早く車で出発した彼らと午後電車で行く私達が墓で上手く会えるか心配だったが、駅に迎えてくれた義弟の車でいつものように右から坂を上っていくと、4つの花束が供えてあるMのところに、着いたばかりだと言うふたりはいた。カスミソウが入った黄色いガーベラの花はこのお友達、赤いアスター、小菊の花束は私達だが、差出人不明のピンクとパープルのトルコ桔梗のブーケ、そしてひまわりの花があった。
彼らは旅行へ行く前に立ち寄ってくれたのだった。現地に着くのは21時になるとナビは言っているが、実家へも寄りたいと言う。栗林を抜け、森を抜け茨城の家に行く。居間で一服し義弟にルートを教わる。地図をもらって意気揚々と出掛けていった。そろそろ又、地震がくるかな？

翌日、おねえちゃんが墓に到着し、それを迎えに行きながら駅まで送ってもらい私達は電車で帰って来た。

翌日、旅のお土産を持って友達が来てくれた。帰るころ大雨と雷が来た。

翌日、宮城県南部が震源なのでＭとは関係ないと思うが・・震度６弱が・・きた。