スコール（電車）

売店の傘はどんどん売れる。

私達も２本手に入れる。傘立ての中が空になり「もうないの」と聞いている客の応対も出来ない忙しさの店員に、「傘はもうないの」と聞いてあげる。「ありますよ」という言葉を伝えてあげて中年夫婦の会釈を受ける。こんな日のためにどうやらいくらでもあるらしい。


９月　雨のち曇り。その日はかんかん照りでもなくお出かけには丁度いいお天気だった。
２時間後、現地につくほんの５分前。電車の窓にポツポツと雨粒がつく。
ホームに降り立つと横なぐりの雨と強風によろめくほどだ。駅舎には動きがとれない人が溜まっている。

駅舎の中のコーヒーショップのカウンターに、売店で買ったばかりの傘を引っ掛けて雨宿りをする。まるで台風のような雨の景色がガラス越しに見える。通りは白くくもりぼやけている。目の前のタクシー乗り場へ行く事さえ困難だ。思いも寄らない天気の移ろいはあるものなのだなあとこれが晴天の霹靂かなあなどと思いながら、冷え込んでいるのにクーラーが効いているこの店さえうらめしく思う。

いつまでもこうしてはいられないと店を出てタクシーで目的地まで行く。
傘を差しながら３０分もするとポツポツにかわり、カラッと雨があがった。いつも真上を見たことがなかったので分からなかった。空が大きいとは思っていたがここの空はプラネタリウムだった。曇り空ではあるものの上空360度全部空だった。夜などネオンもないし、きっとボタボタという星が見えているんじゃないかと思った。

１時間半ほどして帰るころ又雨が降り出した。
その場所まで迎えに来てくれると言った行きと同じタクシーを呼んだ。ふたりがそれぞれ頼り合っていたので、時間がぎりぎりで１時間に一本しかない急行に間に合いそうもない。途中であきらめて町の統合の話などをしてくれる運転手さんの話を聞いていた。渋滞を抜け陸橋に差し掛かった頃、電車が走って来るのが見えた。その時タクシーも駅についた。

この雨で電車も遅れたのだろうか、あと３０秒早ければ乗れたかもしれないタイミングで急行は走り出してしまった。私達は鈍行の電車に乗るはめになった。そしてその時間は長かった。



電車の中は冷房の風が吹きまくっている。

隣のブースにいるふたりのおばあさんは、前の椅子に足を投げ出してくつろいでいながら、足には広げたタオルを乗せている。もうひとりは足元をタオルで固めている。そんなふたりにビュービューと風が吹き付けている。
隣のブースの私達も、ひとりがノースリーブの上に羽織った薄い布の上着を脱ぎ、それをふたりで使うということで寒さ対策をしている。駅に着き一瞬冷房が止まる。外の生暖かい空気も流れ込み心地よい。それも一時の事で又風に震える長い時間が来る。都心に近付き乗り換えた電車も入った途端ヒヤッとし、冷たい風を受け続けることになる。家にたくさんあるのにビニール傘を買い、家にたくさんあるスカーフを忘れた。今回、扇子はあったんだけど・・・。

＜レストランで食事をし、真夏の旧軽で買い物もし、肌寒い白糸の滝を見学します。夏なので車から出るときショールだのカーディガンだのは持たないで歩き始めます。すると木立の中にある滝につく頃寒くってしょうがなくなります。思うんですけど必要なときに必要なものがない。扇子が欲しいとき、カーディガンが欲しいときに、それがない。傘もそう。ウチにあるだけで活躍の場では持ってない。コートが10枚あっても今なくちゃ、ないのも同じ。〈教訓１）いつでもバッグの中にはとりあえずスカーフを入れておきましょう！！＞『２００４マシャ』「アーバンレジェンド」（軽井沢）参照。この教訓役に立たず。またやっちまいました。

プレゼントを見せるため持って行った。「S君がこれを作ってくれたよ。高価なものだよ。かっこいいね。うれしいね。よかったね」『Mチャンネル』「BON」(花火）。急に台風のような雨になった日、Ｍパレス（墓）へ行った。



『ＪＲ東日本の資料によると、常磐線電車が東京発着になれば、上野での乗り換えが不用となり、所要時間は９分短縮できる。１時間に２往復の常磐線特急は、すべて東京発着となる見通し。常磐線は、つくばエクスプレス（ＴＸ）の開業で利用者の減少が予想されており、東京駅との直結は、集客合戦の巻き返し材料になりそうだ。』

「なんか夏って感じがしなくてつまらない夏だった」
枝豆をつまみながらお友達が言う。

「今年の夏休みは遊んだというかんじがしない。飲みにも行かないし・・プールは行ったけど」
タマゴ豆腐を食べながら言う。

「それは大人になったっていうことなのかもしれないけど、カラオケにも行かないし・・ディズニーランドは行ったけど」
とマグロのかまと餃子を食べながら言う。

『ーＭがいた夏ー』を思い出しているのかな。
ひとりで墓に行ったと言うその子は上野駅で小休止するのが結構楽しみなどと言う。お花を買ってから電車で食べるパンを買って鈍行で行くそうだ。
『ーＭといた夏ー』を思い出しているのかな。

「いまだに思ってくれて、あんなに遠い所まで行ってくれるとは、本当に有難いことだね」
とパパが言う。区切りの墓参りをしてくれた彼、しょっちゅう行ってくれる彼、旅行の前に立ち寄ってくれた友達、家族に守られて行って来た親友、又ひとりで行った彼、おねえちゃんも含め、ひとりで行きたがるのはなぜなのだろう。


『上野駅が終点のＪＲ常磐線・特急、特別快速、そして快速電車の一部を東京駅に乗り入れる新線建設計画が完成する見通しになった。』

でもそれは９年度末のことだそうだ。